事例65

生徒による国際情報科学コンテスト・ビーバーチャレンジの問題作り

神奈川県立柏陽高校 間辺広樹先生

私は高校で情報を教えていますが、合わせて情報オリンピックのジュニア部会で、ビーバーチャレンジ(※1)の裾野を広げる活動をしております。今日はその立場でお話させていただきます。

 

※1  http://bebras.eplang.jp/

 

まずは問題を見てみましょう。下図は二進数の問題です。時刻ですから使えない文字や数字があって、それが不正解となります。

 

もう一つは、ビーバーがカヌーで湖を巡るという問題です。一つのルールに沿ってビーバーが動いて行くと、どういう順番でそれぞれの動物に出会うか、という問題です。

 

今日は初めての方にもわかるよう、「ビーバーチャレンジとはいったいどういうものなのか」ということをお話します。このコンテストに参加した生徒の様子や感想を紹介し、その上で私が実践してきたことをご紹介していきます。

 

ビーバーチャレンジとは?

 

ビーバーチャレンジは、児童・生徒を対象にした国際情報科学コンテストです。リトアニアで始められヨーロッパを中心に広まっていきました。イメージキャラクターに動物のビーバーを使ったのは、ビーバーがとても賢い動物だからということです。

 

日本では情報オリンピック日本委員会ジュニア部会(※2)が窓口になり、2010年ぐらいから参加するようになりました。

 

※2:https://www.ioi-jp.org/junior/

 

コンテストとは言いますが、日本では競い合うということはしていません。子どもたちがコンピューター科学に興味を抱くきっかけにしてもらうのが主な目的です。また、「自分で考える」という意識を向上させることや、生徒同士で議論をする題材に使いたいという目的もあります。さらに、授業の補助教材にもなるということで実施しています。

 

では、具体的な流れを見ていきましょう。毎年11月にビーバー週間が設定されていて、申請をすると生徒数分のアカウントと教員用のアカウントが送られてきます。

 

区分は小学校5・6年生から、高校2・3年生までの四つに分かれていて、私の担当している高校1年生は「ジュニア」というところになります。生徒たちは、Webブラウザからここにアクセスして作業をします。

 

所要時間はだいたい35分で、さきほどのような問題が12問あります。1週間ほどしたら結果がわかるので、再度Webブラウザでアクセスして、自分の結果を確認するという流れになります。

 

下図が2016年の問題です。いろいろな国で考えられてきた問題を、再度日本で選別して作っています。ここに日本の問題が3題入っていますが、実は6番と12番の問題、これが実は私の生徒が作ったものです。

参加国の分布と選考の流れ

 

ビーバーチャレンジの国ごとによる参加の様子ですが、フランスでは40万人以上が参加しています。フランス、ドイツは参加者がすごく多くて、上のほうは全部ヨーロッパですね。日本は昨年度4千人程度と、残念ながらちょっと少なめです。

 

ビーバーチャレンジのよいところは、子どもは楽しみながらやっているのに、先生はそれほどやることがないというところです。先生は設定だけをして、「この番号を使いなさいね」と生徒たちに渡せば、あとはどんどん自分たちでやっていきます。日本でも、もっとたくさんの生徒たちにぜひ参加してほしいと思います。

 

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日本では、われわれジュニア部会が集まって問題を作り、その中からいくつかピックアップしてヨーロッパのほうに持っていくということをしています。

 

各国から同じように問題が集まってきて、最終的に「じゃあ今年はこの問題でいこう」となります。選ばれた問題はすべて英語に統一され、今度はそれを持ち帰ってきて日本語に訳し、生徒たちにやらせるという流れです。

 

柏陽高校での取り組み

柏陽高校では、「情報の科学」を受講している1年生がビーバーチャレンジに参加します。ここ2~3年受けていますが、2016年は320名ほどが参加しました。

 

生徒たちには、5〜6月頃に過去問を見せて、「こういうのがあるから見ておきなさいよ」と言っておきます。そして、9月の前期テストで同じような問題を出します。実際のコンテストは11月なので、テストの結果を見て、振り返らせるということをしました。

 

参加するだけでも結構面白いので、生徒からアンケートをとると、楽しいとか面白いという言葉がたくさん出てきます(下図)。一方で「難しい」という感想もけっこうあります。簡単な問題から難しい問題までいろいろあるので、やはり難しいという感想を持つ生徒もいるのです。

 

面白いのは、グラフの左側に「特色」という項目がありますが、これが何かおわかりになりますか。うちの学校では普通の入試問題だけではなく、学校独自で「特色試験」というのを作って受けさせています。特色試験は知識だけではなく、論理的な考えを問う問題です。それと似ているということを、生徒たちは言っているのです。

 

生徒の反応や感想を聞くと、「アルゴリズムと聞くと難しくてとっつきにくいイメージがあるけれども、楽しくアルゴリズムに触れられた」とか、「高校の特色検査を思い出すような問題で、頭を使うものだったりひらめきが必要だったり楽しく情報の概念を学べるようになった」「全然解けなかったこんな問題が思い付く人はすごいなとうらやましく思った」「頭を使う問題や処理能力が試されている問題ばかりで、解いていてとても楽しかった」「私はパズルの問題が好きなので、どうすれば効率的に答えにたどり着けるか、ビーバーコンテストが終わったあとでも考えることができるのが、また違う楽しみ方でもあると思った」というふうに、生徒たちは知的な楽しみを感じながら参加しているという様子が伝わってきます。

 

では、次に生徒によるビーバー問題作りの取り組みについて紹介致します。私もジュニア部会のメンバーとして、問題を今までいくつか作ってきました。下図は実際に採用された問題です。村のスピーカーというタイトルで、すべての家にニュースを知らせるため、もっとも少ない数のスピーカーを設置するにはどうしたらいいか、という問題です。

 

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生徒の感想にもありましたが、「作る」のと「解く」のとでは大きな違いがあります。問題を作らなければいけない、さあ何をしたらいいのかな…となったら、やはり身の周りのものから題材を見つけようと思うものです。つまり、問題を作るという意識でいると、情報や科学っぽいものはないか、という目で周りを見ることができるようになるのです。そういった目で物事を見ることが、生徒の中の成長を促せる部分ではないかと思います。

 

11月に実際のビーバーコンテストがあり、12月の冬休みにビーバー問題作りを宿題に出します。冬休み明けの1月に宿題を全部集め、PDFにして全員でシェアします。

 

その中から優秀な問題をいくつかピックアップして、それを冊子にして生徒たちに配ります。さらに、その中から問題を絞りこんで少し手を加え、学年末テストに出すということを行ってきました。

 

教材として活用することもありますし、いい問題を情報オリンピックのほうに持っていって、日本代表問題の選考会へ持っていくということもあるわけです。

 

どんなふうにオリジナル問題を作っていくのか

さて、問題作成のヒントですが、実はこういった教員向けのガイドラインがあります。情報科学を題材に扱った問題であると同時に、学びを体験できること、1問辺り3分以内で解けること、問題文が容易に理解できること、一つの問題を1画面で表示できること、楽しくやる、そして絵を含む問題を用意しましょう……こういう条件を生徒に伝えて、問題を作るよう指示します。

 

配布するプリントは、このように枠だけを作っておいて、ガイドラインに気をつけながらあとは自由に作っていこうと伝えます。もちろん過去問や教科書を見てもいいのですが、誰かのまねをするのではなく、あくまで自分の個性を生かしたオリジナルを作ろうと指導します。

下図が生徒の感想です。一番多いのは「難しい」という感想です。その次が「面白い・楽しい」となります。問題を解いたときと感想が逆転しているのです。あとは「たいへんだ」というのもあります。

 

そのコメントとしては「いつも問題を解く側だったのでこんなに問題を作るのが難しいとは思わなかった」「自分で作ったのに自分で間違えたことが面白かった」などがあります。「親に確認のために解いてもらっていろいろ修正していくのが楽しかった」というのもありますね。宿題を親と一緒にやってみるというのも、すごく素敵だと思います。また、出題意図をきちんと伝える、誰もが解けるような問題にするというのが、実はとても難しいということを何人もの生徒が言っていました。生徒たちが、受験とは直接関係ない活動に集中して取り組むというのは、それなりに価値があることだと思います。

 

では、問題を作るためにどんなものを利用したのでしょうか。インターネットで過去問を見た、過去問以外のことをいろいろ調べた、教科書を見たなどが多いです。だいたい1時間から2時間かけて取り組んでくれました。

 

過去問や教科書を見るという行為は、通常自分から進んでやることはありません。こういった課題に取り組むことによって、生徒が自ら活動してくれたという意義は大きいといえます。

 

自分たちの作った問題が全世界に広がっていく

 

下図は過去に採用された問題です。左のコルクのパーツで作れない作品はどれか、と聞いています。

この問題を作った生徒に「どうしてこの問題を思いついたの?」と聞くと、「いや、何となく」と言うのです。何かパッとひらめいたのでしょう。それが世界に通用するケースがあるということです。

 

もう一つ、2015年に最も多く使われたということで表彰された問題を紹介します。左が生徒の作った問題で、これが実際に採用されると問題文も英語になってこのようにきれいに整えられます。そしてこれが様々な言語になって全世界に広がっていきます。それを想像すると、本当にわくわくするような夢のある楽しい取り組みだと思うのです。

 


ビーバーチャレンジに参加してみませんか

ビーバーチャレンジ、ぜひそれぞれの学校で一度試してみてください。今年の11月のビーバー週間については、もう申し込みページがすでにできています(※3)。必要なものは先生のメールアドレスと、生徒分のアカウントです。

 

※3 https://goo.gl/MUQw5t

 

ビーバーチャレンジは、楽しみながら情報科学を学べるとても優れた教材ですので、ぜひ効果的に使ってください。コンテストの参加や過去問を解くだけでもよいのですが、やはりオリジナル問題作りに挑戦してほしいです。楽しくて難しくて、そして生徒を本気にさせるという、そんな有意義な課題です。

 

[質疑応答]

 

質問(公立高校教員):英語の過去問を参考にして問題を作った生徒さんはいましたか。また、英語で作問することは勧めていらっしゃいますか。

 

間辺先生:実は、それがこれからの課題なのです。定期テストでは英語で問題を出すこともありますので、中には挑戦してくれる子もいるのではないかと思っています。いずれ、ぜひ取り組んでみたいです。

 

※第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)(2017年8月8日・9日)の講演より