事例58

ブレインライティングを体験しよう

神奈川県立平塚湘風高校 諏訪間雅行先生

いま求められる力 〜進化し、あふれる情報。どう組み合わせていくのか〜

先日、落合陽一さんのお話をうかがう機会がありました。落合さんは、世界が注目している研究者で、筑波大学に研究室をお持ちになり、空気中に音波を使ってものを浮かせたり、何にもない空中に絵を描き出したりといったことをされています。

 

その落合さんが、中学生を相手に3日間のワークショップを行ったそうです。内容は、3Dプリンターなどを駆使してスマートウォッチを作るというものでした。これは、5年前であったら大学院の修士課程でやっていた内容でした。それが、優秀な生徒とはいえ、中学生レベルが取り組める時代に変わっているのです。

 

つまり、情報はどんどん進歩していきますし、それらを吸収してどんどん新しいものにしていかなくてはいけない。同時に、様々な情報があふれている中で、それらをどう組み合わせていくのか、それを考えることが今求められている、というお話をされていました。そして、科学者に必要な素養として、「単発的に考えるのではなく、発想し続けること、そして協力してやっていけること」が大切であるともおっしゃっています。

 

実は、これらはもう何年も前から私たち教育者が常に言ってきたことです。

 

「協力して考える」ブレインライティング

今回お伝えしたいのは、「協力して考えること」についてです。情報の授業の中で扱う活動にKJ法やブレインストーミングというものがありますが、実践してみるとなかなか敷居が高いと感じることがあります。それに対し、今回ご紹介する「ブレインライティング」は、実践しやすいものです。

 

問題解決の単元だけではなく、授業の様々な場面でも使えます。先日、情報モラルに関する授業を行った際の例です。生徒たちに見せるDVDの中で、登場人物がいろいろな問題行動を起こしますが、何が問題行動か、その解決方法は何かなどを考えさせます。このような時に、このブレインライティングの手法が使えます。

ヒントは中学校国語の作文指導

 

具体的な説明の前に、この手法を始めた経緯をご説明します。

 

私は、15年ほど前までは数学の教員でした。その後、情報の教員になり、急に生徒のプレゼンテーションを指導することになりましたが、最初は全然うまく指導できず、困りました。もちろん、PowerPointの使い方などの典型的なプレゼンテーション素材作りの指導はできます。しかし、実際に作らせてみると、自主的にさっさと作れる子もいれば、全然作れない子もいました。そんな生徒たちにどのように指導するか悩み、いろいろな先生方にご相談をしました。

 

特に、中学校の国語の先生の「作文の指導」からは、学ぶことも多く、上條晴夫先生や池田修先生には、多くのことを教えていただきました。

 

よくありがちな悪い指導例として伺ったことは、次のようなものです。

 

「昨日は遠足に行き、楽しかったですね。書きたいこといっぱいあるでしょう。じゃあ書いてごらんなさい」と指示し、書けたら全員の作品からよく書けたものを選んで、「誰々さん、よく書けましたね。これがよかったですね」と紹介する、といったものですが、これでは授業とは言えないと言われました。

 

本当の指導とは、誰でもが一定水準の作文を書けるようにすることである。そのために「素材をどう集めてくるか」「それをどう組み立てるか」そして、「フォームをどう作っていくか」ということを緻密に指導することです。特に、「素材の集め方」「発想法」のトレーニングが必要だと感じました。

 

「質より量」「批判はダメ」「クレージーでもOK」「便乗も大歓迎」

実際の授業では、ブレインライティングを行う前に、発想力をつけるためのトレーニングをゲーム感覚で行います。

 

例えば、「レンガの変わった使い方を考えてください」というテーマを出します。レンガを普通に積むと、暖炉や壁ができます。しかしそうではなく、例えば温めてタオルにくるみ、湯たんぽにすることもできます。こういった、レンガの本来の目的とは別の用途を発想してみよう、といったことを考えます。そして、生徒には順番に当てていくことを事前に伝え、考えさせます。

 

やり方は、ブレインストーミングのルールを使います。

(1)質より量。どんなつまらないことでもいいので、たくさん話す。

(2)どんな意見が出ても、批判は禁止。

(3)突拍子もない意見、クレージーな意見も大歓迎。

(4)他人の意見に便乗したり、アイデアを追加したりするのもOK。

 

例えば「重しにする」というようなアイデアが出たら、「漬けもの石にする」など、似たような意見もOK。どんなアイデアも「それは無理だ」ということは決していわずに、否定しないで柔軟に発想するという訓練をします。クラス40人に順番に答えさせていきます。「削って食物にする」などというびっくりするようなものも出てきました。

 

授業では、テーマに対して漠然と考えるのではなく、範囲を絞っていくと発想がしやすいということも紹介しました。例えば「白いものを挙げてみましょう」というテーマに対し、範囲を「食べ物」に絞れば「牛乳」や「パン」などが出てきます。これは、オズボーン法の応用ですね。

 

大事なのは質より量。漠然と考えるのでなく、時間を絞る

さて、実際のブレインライティングを体験していただきましょう。情報の授業では「情報社会の問題点を考えてみよう」といったテーマで行いますが、今回はゲーム感覚で行いましょう。よくあるテーマ「自動車の新しい使い方」を、今回は先生方6人ずつのグループで考えていただきます。

 

授業では、いきなりブレインライティングに入らず、各自でアイデアを考えるところから入ります。各自で約5分でアイデアを10個以上書くように指示します。実際の時間配分は生徒の様子を見ながら考えますが、ポイントは、どんなにつまらないことでもたくさん書くこと、時間を絞ることです。

 

ワークシートの一番上の行に、「車の使い方」を各自3つ書いてください。書けたら隣の人にそのシートを回し、受け取った人は、前の人のアイデアをよく読み、参考にしたり発展させたりしながら、なるべく関連付けたアイデアを書いてください。どうしても無理という場合は、全く新しいアイデアでもかまいません。絶対に空白のまま隣に廻さないようにしてください。これを繰り返します。

この紙に書かれたアイデアの収束方法は様々あります。いちばんシンプルなのは、アイデアを書くのと同じく、グループ内で紙を回します。いいなと思うもの3つくらいに丸を付け、再度隣の人に回していきます。これを一周させると色々なところに丸が付くのですが、やはり中でも良いアイデアに集中して丸がつくようになります。そこまでが下準備です。後はグループで集まっていちばん良いアイデアを話し合って3つ選び、最後に発表します。

 

生徒たちには最初にゴールを示しておく

 

このような授業を行うときに大切なことは、ゴールを明確にしておくことです。授業の最初に「今日は最後に発表してもらうよ」と言っておきます。もちろん、ただ発表するのではなく、最初のうちは、例えば「私たちの班は〇〇と△△を候補に挙げましたが、話し合った結果□□という理由で〇〇を最終案にすることに決めました」という形式で発表してみよう、といった具体的なことまで細かく伝えるようにします。

 

私は、もともと数学の担当でした。数学の授業ではブレインライティングは使いません。ただ、実は数学の証明問題というのは、素材(正しいといえること)をたくさん挙げそれをどう組み合わせていくかが大きなポイントになります。そのためには柔軟な発想を持つことが必要です。また、特に統計の分野では、生徒が話し合う場面があります。その意味でブレインライティングの手法は数学にも役立つものだと考えています。

 

これからの生徒の未来のために、何よりも自分が面白いと思えるために、「わくわくする授業」に挑戦していきたいと思っています。

 

[参考資料 検索キーワード]

 635法 シンキングツール テストの花道 マインドマップ マンダラ法 落合陽一

上條晴夫 池田修

 

神奈川県情報部会第2回研究会 実践事例報告会発表より