授業デザインとデジタル教科書が拓く、新しい英語教育の可能性

大阪私学教育情報化研究会 ICTデジタル教材勉強会

~英語授業力向上を目指して~


2013年6月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」では、「2014 年度末までに、『デジタル教科書・教材』の位置づけ、制度に関する課題整理を行い、2015 年度から『デジタル教科書・教材』の導入に向けた検討を実施する」ことが謳われています。2012年度現在のデジタル教科書の整備率も全国平均で32.5%(2012年度文部科学省「教育情報化実態調査」)、前年度比9.9ポイント増と大きく伸びており、教育現場のICT化はますます加速しています。

 

デジタル教科書をどのように使ったらよいか。そのためにはどんな準備をしたらよいか。導入に当たっては、課題や疑問が山積みです。デジタル教科書の開発が最も進んでいると言われる英語科で、実際に各社の教科書を使って優れた授業を行っている先生方が集まって授業の方法を公開するワークショップと、教科書会社が自社の教材を紹介するイベントが大阪で行われました(2014年7月19日@内田洋行「大阪ユビキタス協創広場 CANVAS」)

 

先生方のプレゼンから、授業展開のヒントになる部分をピックアップしてご紹介します。

 

第1部「いよいよやってきたデジタル教科書」

羽衣学園高等学校(大阪) 米田謙三先生

米田謙三先生
米田謙三先生

いよいよ高校にもデジタル時代がやってきました。今回は、各学校の教科書選定の時期ですので、英語表現のデジタル教科書を発行している全ての教科書会社に連絡し、趣旨を説明して集まっていただきました。デジタル教科書を出版している教科書会社が全社参加のイベントは、日本で初めてだそうです。今日はその中で、選りすぐりの実践を紹介します。

 

今回のテーマは、「いよいよやってきたデジタル教科書」です。学校でのICT化といえば、電子黒板やデジタル教科書ですが、今いろいろなところで話題になっているのはタブレットですね。いろいろなところで一斉導入が行われていています。うまく使っている学校では、情報の配信や収集なども効果的に行っていますし、子ども達もサクサクと使いこなしているようです。一方で、ダウンロードがうまくできないとか、固まってしまうなどという悪い情報も流れていますが、こういった問題についても、後半の質疑応答でお話しできればと思います。

 

デジタル教科書は、定義上は学習者が使うものですが、そうなると著作権問題で一人一台のタブレット(パソコン)が必要になりますが、そのような環境が整っていないところでは、今のところは指導者用が中心です。また、現段階では今教科書検定の対象外であるため、「問題集」「紙版教科書の付録」といった参考書のような扱いの位置づけになっています。

 

注目されているデジタル教科書ですが、万能ではありません。ハードの側の充電の方法、保管場所から始まって、個人データの保存の方法、無線LANの整備、電子黒板などの周辺機器の準備等など、環境整備だけでもさまざまな問題があります。メモやノートの取らせ方をどうするか、授業のスタイルはどうしたらよいかなども考えなければなりません。ページを繰ったり書き込んだりするスピードは紙の教科書にはかなわないことも事実です。ですから、すべてをデジタル教科書に換えてしまうのではなく、デジタルと紙の教科書でいかに棲み分けていくかが課題となります。

 

デジタル教科書は、マレーシア、インドネシア、タイ、韓国などでもいろいろと使っている事例も出ています。こういった国際的な動きを無視して、従来通りのChalk and Talkの授業を続けていくわけにはいきません。

 

デジタル教科書を使うことの利点としては、繰り返しや保存、共有が簡単であること、収集・配布が容易であることがあります。そこでキーになるのは、LMS=Learning Management System、マネジメントをどうするかということです。今一番問題になっているのは、デジタル教科書の導入が学力の向上にどうつながるか、ということです。それをどうやって証明するのか。どのような力が伸びたのか。それをテストで評価するなら、どのようなテストを行うのかも考える必要があります。さらに情報活用・編集能力の向上も期待できます。これらのキーワードをおいて、実践例を見ていただければと思います。

 

第2部「となりの学校は何してる?」

■デジタル教科書の活用でハンドアウト作成の手間を省き、新たな授業の工夫が可能になる

東北学院高校(宮城) 新田晴之先生

<使用教材>啓林館・LANDMARKⅡ(指導者用)

新田晴之先生
新田晴之先生

これまでの英語の授業では、先生方はCDプレーヤーやタブレット、フラッシュカードなど、たくさんのツールを使用して工夫してきましたが、これをまとめて使いやすくしたのがデジタル教科書であると考えています。デジタルだから特別な・新しいことをしているわけではなく、これまで先生方が行ってきた授業の工夫をまとめて授業に置き換えた、といった感覚です。

 

本校で使っているデジタル教科書の特徴は、充実した機能と充実した付属のハンドアウトにあります。本文に入る前に、フラッシュカード等でひととおり新出単語を押さえて、導入に入ります。例えば、今日皆さんにご紹介するテキストは、車椅子のテニスプレイヤーの国枝慎吾氏に関するものですが、クリップ機能で予め用意した映像やインターネットのURLにリンクをはって、テキストの理解の前提となる知識を広げたり、文法の重要事項や熟語を付箋機能で示しておいたりすることができます。また、説明のためのアンダーラインや記号も描画機能で簡単に入れることができます。

さらに音読では、音声データを使って、速度を変えたり繰り返したりして読ませることができます。新出単語や熟語をマークして注意させながら読むこともできますし、マスキング機能を使えば、重要単語を隠してしまってDictationをさせることもできます。

 

ただし、デジタル教科書を使う際には、文字のサイズに気をつけることが大事です。プロジェクターで教室前方に表示させていますが、たくさんの文章を映そうとしても後ろの方の生徒には見えないので、文字が見えるレベル(250%くらい)まで拡大する必要があります。

 

高校英語の教育は、これまで様々な意見があり、ある意味さまよっていたとも言えます。また、ハンドアウトを作りに時間がかかったり、コミュニケーションを重視するタスクの準備をしたりと、授業準備に時間がかかりました。デジタル教科書は救世主かと言えば、決してそのようなものではありません。ただし、充実した付属テキストとデジタル教科書を使えば、授業前のハンドアウトの準備が要らなくなる、というのは少し語弊がありますが、少なくとも今までハンドアウト作成にかける時間は確実に減らすことができます。そうなれば、先生は今まで授業準備にかけていた時間を別のハンドアウトや授業の工夫に使うことができるようになります。最初は用意する時間がかかりますが、あとは使いまわしができるので、絶対楽になります。デジタル教科書を使うかどうかという問題は、この手間をどう考えるかであると思います。

 

ここからは、デジタル教科書を使っていく際の問題点です。

 

指導用のデジタル教科書を使っていて苦労する点としては、各社の仕様がバラバラで一長一短があり、他社でできることが、こちらではできないということが往々にしてあります。また、インストールに長時間かかったり、ネットワークの設定によっては正常起動しなかったりということも多く、これにも結構苦労します。各社が特徴を持たせていくのと同時に、基本的な部分は早めに標準化していただくことを期待しています。

 

また、画像や動画などいろいろ取り込むと、どうしても容量が大きくなります。学校によってICT環境は異なり、場合によっては機能を制限せざるを得ないといったことも出てくるでしょう。今後は、デジタル教科書のクラウド化が重要になってきますし、システム管理者の理解を得る努力も必要だと思います。

 

まとめますと、デジタル教科書はできたばかりでまだまだパーフェクトなものではありませんが、これを使うからこそできることも多く、使わない手はないと思います。問題があるところは、先生方が実際に使ってみて、教科書会社にフィードバックして改善していけばよいのです。

 

今後、デジタル教科書を浸透させるためには、

「より良いデジタル教科書を作って教科書会社がWin」

「デジタル教科書を使って教員がWin」

「英語ができるようになって生徒がWin」

という三者のWinが築けることが重要だと思います。

 

■聞く・読む・話す・書くの4技能をインテグレートできる

大阪府立鳳高校 溝畑保之先生

<使用教材>増進堂・NEW STREAM(指導者用)

溝畑保之先生
溝畑保之先生

デジタル教科書を使えば聞く・読む・話す・書くの4技能をインテグレートできる、というのが使ってみての実感です。特に最近重視されている「表現」の部分、これは紙の教科書では文法ベースになりがちですが、デジタル教科書を使ってここをしっかりやれば、英語の基礎的な力がきちんと身についてくると思います。

 

本校で使っているデジタル教科書は見開きで、紙版教科書と同じような表示・動きができ、使いやすい造りになっています。さらに、本文に入る前の重要構文などのGrammarのアクティビティが豊富です。例えば今日の例文では過去形と過去完了形について、他の例文を使って時制の違いを詳しく説明しています。このようなステップを踏んでいるので、本文を読んでいく時も学んだ文法事項が入っていることが意識できるようになっています。


私の授業では、押さえるべきポイントは日本語で説明をして、それ以外は英語で進めるようにしています。紙の教科書とCDを併用する場合、いちいち切り替えるのが面倒で授業の流れが途切れますが、デジタル教科書だと切り替えも楽ですし、流れもスムーズです。

 

音読に用いる音声データは、紙ベースの教材本体の質の良さが埋め込まれた造りになっています。読み上げ速度や読み上げ間隔を調整できるので、生徒にとっては文章のまとまりごとで理解させやすくなっています。さらに、本文の内容に合わせた英語でのQ&A、T/Fクイズなどが豊富に入っているので、英語が不得意な子に繰り返して練習させたり、ペアワークで行ったりすることができます。これらの機能を使いながら、随時自作のPowerPointのシートを挟み込み、ポイントを押さえています。

授業1コマの中で英語を使う時間は、約70-80%です。デジタル教科書を導入することで、生徒に英語を使わせることがとてもやりやすくなったと感じています。

 

溝畑先生の英語教育実践のサイト:http://www.tcnet.co.jp/~myasuyuk/

 

■デジタル教科書の導入で、「何となく授業に出ている」という生徒が減った

羽衣学園高校(大阪) 田中純一郎先生

<使用教材>桐原書店・PRO-VISION(指導者用)

田中純一郎先生
田中純一郎先生

私は高校教員になって今年で2年目です。新卒で本校に採用されて、現在は1年生を担当しています。

 

具体的なご説明に入る前に、デジタル教科書に対する私の率直な感想をお話ししておきたいと思います。先生方がいちばん気になるのは、デジタル教科書は生徒にプラスかマイナスか、ということだと思います。個人的には、デジタル教科書は生徒にとってプラスの部分が多いものの、100%デジタルというのは現実的ではないと思います。なぜなら、彼らが否応なしに受けなければならない大学入試のための受験勉強は、紙と鉛筆の世界です。最終的に手で書くことをしなければならず、デジタル教科書だけではそのための学習をカバーすることはできないからです。

 

デジタル教科書を使った授業に必要な設備としては、PC、デジタル教科書(指導者用)、短焦点のプロジェクター、そしてスクリーンがあればよいと思います。こちらが私の授業の風景です。黒板の前にスクリーンとプロジェクターを置き、黒板のスペースも少し空けておきます。これはちょっとしたことのメモを取らせる時などに使います。これらの設備は教室据え置きになっていて、使いたい先生がその教室に行くようになっています。

 

授業で取り組む以上、「1年間持続可能な授業であること」をテーマにしています。これには、1年目の反省として、着任早々の春先には張り切ってプリント等を作っていたのが、夏以降に多忙で作れなくなっていったことがあります。この時は、生徒に「手を抜いているのでは?」と言われてしまい、ショックを受けました(笑)。頑張り過ぎず、1年を通して続けられることがとても大事であることを痛感しました。

 

授業で使っている具体的な方法には以下のようなものがあります。

(1)SVマーキング:生徒には本文のテキストに、文中のSとVを赤と黄色でマークさせて授業に臨ませる。解答を映して自分でチェックさせる。

 

(2)マスク音読:一斉の音読の際に、マスキング機能で単語をどんどん消していく。前を向いて音読させるために、最初は全文を表示して音読させ、次はどこが消えるかに注視させる。この方法だと、恥ずかしがりの子も前を見て声を出せるし、視覚的に楽しめる。自信がなさそうな場合は、単語の頭文字を表示してヒントにする。最後に、一文全部を隠し、日本語を読んで英作文させる。

 

(3)カラオケ音読:Overlapping効果を狙って実施。音読を十分練習させておいた上で、ネイティブのナレーターと同じ息遣いや速度・口調で読む練習をする。遅れる人を観察して、音のつなぎ方など読み方の指導を別途行う。

 

このようにデジタル教科書を使うことで、生徒が音読を非常に積極的に行うようになりました。ふだんなかなか声を出さない子も、目線が下に向かず、前を向いて読むことができています。これらは4月の授業から行って習慣づけたものが、今も持続しています。

 

嬉しかったのは生徒からの声です。カラオケリーディングでは、読んでいるところの色が変わるので、今どこを読んでいるのか、何の話をしているのかがわかるようになったというのです。その意味で、全体としても「何となく授業に出ている」という生徒が減ってきた、という印象があります。

 

■自分の授業スタイルに合わせて、使いやすい機能や補助教材を選択する

大阪府立花園高校 上田聖司先生

<使用教材>東京書籍・Power On Communication English I(指導書に無料で付属しているデジタル教材を利用)

上田聖司先生
上田聖司先生

本校では、教科書用指導書を購入すると無料でついてくるデジタル指導書のデータを活用しています。プロジェクターは全HR教室に設置されていますが、PC端末は据え置きではないので、授業で使う際には自分で持ち込みます。そのため、授業の5分前には教室へ行って準備をする必要があります。

 

デジタル指導書は1年生の授業で採用しています。DVDなので、インストールは不要でファイルのコピーで済みます。また、全てがPowerPointのデータになっているので、手軽に加工して使えるという利点があります。

 

デジタル指導書には、全てのレッスンの教材が入っていますが、私のように30年以上教えていると、ある程自分のスタイルができているので、自分流のやり方にアレンジして使いますし、まったく使わないデータもあります。1年生の英語の担当は3人いますが、自分は使ってないデータや機能を他の先生が使いやすいと使っていることもあります。それぞれが自分に合った使い方をしているのですね。

 

また、PowerPointデータだけでなく、教科書本文のテキストデータや練習問題などいろいろな情報が1枚のDVDになっていますので、とても便利です。

 

自分の教材データを作るときは、デジタル指導書の中に入っている画像やテキストデータを簡単にコピーしながら、アレンジして使います。特にレッスンの初めに内容を説明する導入用のスライドを作る時には便利です。ネットなどで画像を探すのは結構大変ですし、思い通りのものはなかなか見つかりません。教科書に使われている画像も入っているので、手間を省きながら、簡単に教材データを作ることができます。

 

音読の練習では、プロジェクターによるスライド提示に加えて、補助プリントを作製するようにしています。スライドで一斉音読を何度かさせると飽きるので、まず本文を全員で1回読んだら、次はペアリーディング用のプリントを渡してペアで読ませます。さらに、デジタル指導書の中にあるテキストがマスキングされたスライドデータを使って、生徒を指名しながら一人で読ませます。このようにすると、1つの授業の中で全員→ペア→(隠したところを)個別に読ませるという、違った音読の場面を作ることができます。この音読練習を1年生の4月から入れておけば、先ほど田中先生もおっしゃったように生徒に音読の習慣がつきます。

 

PowerPointスライドを使えば、教員が本文を黒板に書き写す手間と時間を省くことができ、多くの情報を提示できます。しかし、黒板は文字が残りますが、スライドは画面を変えてしまうと何も残りません。そのため、消さずに残すことが必要な場面では黒板を使うこともあります。PowerPointスライドと黒板、デジタル教科書と紙の教科書やプリントなど、用途や特徴をよく考えて、使い分けながら授業を進めていくことが必要であると思います。

 

■デジタル教科書、使い始めて3か月で「エキスパート」になれる

兵庫県立姫路西高校 坂本健一先生

<使用教材>文英堂・UNICORNⅠ(指導者用)

坂本健一先生
坂本健一先生

今年(2014年)4月の授業開始からデジタル教科書を使い始めて3か月なります。感想は「いい!」。もうもとの授業には戻れない、と感じています。

 

姫路西高校はSuper Global High Schoolです。2学期制を取っており、学校行事も盛んな、いわゆる文武両道の学校です。課題研究を通して、グローバルコミュニケーションの力をつけることを目指しています。進学実績を守りながらグローバルも、というところです。

 

このような学校ですので、英語科では下記のような方針を取っています。

・紙辞書をしっかり使う

・多読

・コミュニケーション

・音読シートで「キクタン」(キクタンBasic4000・アルク)の音読練習をする

・逐語訳ではなく大意把握を行う(逐語訳は配布)

この大意把握にデジタル教科書を活用しています。

 

今日お見せする章は、ベネズエラで行われているクラシック音楽を通した人材育成「エルシステマ」に関するものです。電子教科書だと、地図や動画など、本文の理解に必要な資料が一緒に入っているので、授業の準備にとても便利です。授業の進め方としては、まず「Reading Points」で生徒が予習してきたことの確認したあと、新出単語や重要語句の発音をフラッシュカードで押さえます。この教科書の特徴は、発音記号を提示して発音させたり、ナレーターの反応を1秒遅らせたりする機能もあることです。これで単語の発音を徹底します。

 

次に、本文の各パートの精読に入ります。本文を映すことができるので時間を短縮できる上、スラッシュやアンダーラインなどの書き込みやマスキングも簡単にできるので、大いに活用しています。授業は原則All Englishで、英語の発問に英語で答える形で進めます。SGHが今までのようなChalk and Talkの授業をしているわけにはいきません。そのためにもデジタル教科書は非常に便利です。

 

さらにいろいろな形で音読を徹底して行います。

 ・一文ずつ読んでいくフレーズリーディング

 ・生徒が2人一組で行うペアリーディング

 ・スクリーンに映した本文を見ながら一斉でカラオケリーディング

 ・Masking機能を使ってポイントとなる単語を隠しながら行うカラオケリーディング。この場合は隠れている部分を考えながら読んでいきます。

 

ここまでの活動は、デジタル教科書を活用することでサクサク進むので、余裕のできた時間はサマリーの作成の練習にあてています。先ほどお話ししたように、本校の英語の授業では、逐語訳はさせず大意を把握するという形で内容を理解させています。ただ、最初からサマリーを作るのは難しいので、英語の要約を見せて必要な語句が入っているかを確認しながら書き直していくようにしています。

 

デジタル教科書を使い始めて3か月ですが、生徒も自分もすっかり慣れ、エキスパートになれたと自負しています (笑)。

 

 

■生徒用デジタル教科書を使う方針は「iPad×ABC」

同志社中学校(京都) 反田任先生

<使用教材>三省堂NEW CROWN(指導者用)

反田任先生
反田任先生

本校は全校877人。中学・高校キャンパスの再構築をした際に、中学は教科センター方式(生徒が授業毎に教科の学習室に行く)と、ノーチャイムでの授業を導入しました。生徒は、電子掲示版を見て教室を移動します。これは、自主自律を重んじる本校の教育理念によるものです。

 

英語科には大教室5、小教室3、CALL教室2の計10教室があり、すべての教室にPC、電子黒板、プロジェクター、WiFiの環境が整備されています。

 

タブレットの導入は、2012年に始めました。最初は iPadを20台使った授業実践を始め、2013年には iPadを40台導入しました。そして今年2014年から、 iPad mini を学習ツールとして、新1年生全員に一人一台を保護者購入として持たせました。このiPad miniは家にも持ち帰り、予習・復習や宿題などの家庭学習にも利用しています。

 

タブレットを使うにあたっては、「iPad×ABC」を学習のコンセプトとしています。「ABC」には、Active Learning、Blended Learning、Collaborative Learningの3つの学習方法と、「ものごとの基礎、基本」の「ABC」の二つの意味合いを持たせています。英語科では、指導用デジタル教科書をサーバーにインストールし、10教室の全てのPCで使えるようにしてあります。指導用デジタル教科書は、3学年のすべての授業時間で利用しています。一方、生徒用のiPad miniにはGenius 英和・和英辞典をインストールしています。タブレットに電子辞書の機能が入っていることは、保護者の理解を得る上で意味が大きいと思います。

 

デジタル教科書では、主にフラッシュカードや音読練習機能を使っていますが、Power PointやKeynote、iBook Authorなどで作成したオリジナル教材も使っています。さらに、YouTubeやTED(Technology Entertainment Design)の有名なスピーチ映像を活用したり、Speak It!やWord Wizardなどのアプリを活用したりして、デジタル教科書の有効性をよりアップするように使っています。

 

生徒用のiPad miniは、電子辞書以外に教材プリントの配布や保存に便利ですし、教科書の音読データを学校で購入し、サーバーに置いて自分のタブレットにダウンロードできるようにしてあります。

 

音読という点で言えば、ReadingのテストにもiPad miniを活用できます。指定した英文を読んで30秒で録音させ、いちばんよくできたものを送らせるのです。教員は提出された音声を時間のある時にチェックすればよいので、教員も生徒も時間を有効に使うことができます。同じようにして、ロイロノートを使って自己紹介のプレゼンテーションも作成し、提出させました。

 

本校ではiPadの導入に合わせて学習ポータルサイトを構築し、教材フォルダにプリントなどの教材を置いておき、ダウンロードして学習をするよう促しています。

 

英語の筆記体の動画なども作成しています。またiBookで作成したオリジナルのデジタル教材を用いて反転学習などに活用できる可能性が広がりました。このようにいろいろな使い方をしていますが、授業内でiPad miniを使うのは10~15分程度です。私達がデジタル教科書やタブレットを導入する際には、「一斉授業の中でこのタイミングでペアワーク、ここでは個別学習の方が効果的では…」などということを考え、そこにICTを当てはめていく、という授業デザインから入っていきました。ICTを有効に活用するためには、しっかりした授業デザインがあってこそだと思います。

 

■もともとの授業の流れの中で、デジタルがうまくはまるところに落とし込んでいく

大阪府立池田高校 中道佳代先生

<使用教材>数研出版・POLESTAR 英語コミュニケーションⅡ(指導者用)

中道佳代先生
中道佳代先生

本校は、グローバルとICTを軸の一つとして教育改革を行っています。校内にICTのプロジェクトチームがあり、今年2年生の9クラスのHR教室すべてにプロジェクターが入りました。私も、今年(2014年)4月からデジタル教科書を使い始め、現在、2年生の英語担当4人のPCに指導者用をインストールして使っています。

 

デジタル教科書の導入にあたって考えたのは、忙しい中でどのように効果的に使うかということです。そのため、まずはもとの授業の流れの中で、デジタルがうまくはまるところを探して落とし込んでいくことから始めました。やはり慣れるまでが大変で、授業の仕込みにも時間がかかります。備え付けのプロジェクターがある教室でも機器の設置や配線等のセッティングが必要になるので、授業準備のために紙版教科書の時より5分は早く教室に行かなければいけないということもあります。

 

また、電子黒板はまだ使い勝手が悪いということもあって、プロジェクターで黒板に本文を直接映し、スラッシュやS/Vなどの書き込みはチョークで行っています。邪道かもしれませんが、これはけっこううまくいきます(笑)。

 

使い方としては、他の先生方がおっしゃったように、音声機能を使用し、コーラスリーディング、ペアリーディング、オーバーラッピングなどいろいろな形で音読の練習をさせています。何回も音読した後に、日本語を見てすぐに作文させる「瞬間英作文」にも利用できます。また、各課の導入ではデジタル教科書にあるスライドショーも有効ですし、本文の音声を使って空欄埋めの小テストも行っています。

 

3か月使ってみての感想は、本文を黒板に映せるので板書の時間が減り、確実に時間短縮ができるということです。授業のスピードは確実に上がります。しかし、生徒がしっかり授業についてきているかどうかは、これからも注意深く見ていく必要があります。黒板に映し出す文字の大きさや色は、生徒の意見を聞きながら調整が必要です。音声機能は効果的で、生徒は前を向いてしっかり音読するようになります。デジタル教科書にはいろいろな機能がついていますが、あれこれ欲張らずに使いたい機能を選ぶ方がうまくいくと思います。

 

■「本日のまとめ」

ワークショップの後、米田先生の司会で7人の先生のパネルディスカッションが行われました。米田先生や、会場から事前に出された質問に対する先生方の回答をまとめて紹介します。

 

Q.デジタル教科書を授業の中で使う割合はどのくらいですか?

 

・3-4割 2人

・半々  4人

・授業内容によっては、全く使わない時間もある(あってよい)1人

 

Q.デジタル教科書の課題はどんなところでしょうか?

 

・準備のために早めに教室へ行く必要がある。

・ケーブルやスイッチがちょっとしたことで切れやすい。

・電子黒板とデジタル教科書の機能を比較すると、電子黒板の機能は実はあまり多くない。写真や動画は、PowerPointなどにリンクを仕込んでおいて、リンクから映すようにするとよい。あるいは、YouTubeにリンクしてiPadにダウンロードする。

・WiFi環境が整備されている学校はまだ少なく(今回のパネリストでは、私立の2校のみ)、教室にアクセスポイントを持ち込むことになるが、1台2万円くらいする。学校でiPadを一斉に使うと、4-50台が一斉にダウンロードすることになるので、それだけのスペックを持っているものでないと使い物にならない。

 

Q.デジタル教科書への思いを語ってください。

 

・デジタル教科書の機能は、今まで先生達が授業実践で積み上げてきたものの公約数です。こういうものを使うであろう、あったら便利だという機能が入っています。うまくいかない部分は、自分でオリジナルのハンドアウトを作ればいいと思います。

 

・指導用と生徒用とは別のものだと考える方がよいと思います。指導用を使うことで、生徒は前を見て集中して授業を受けることになり、短時間で内容を向上させることができます。しかし、一方でどんどん進むため、授業が「流れて」しまうことは事実です。準備したものをそのまま使うのでなく、ノートテイキングなどで変化をつけることが必要だと思います。

 

・授業中に英語を使えるようになったのがいちばんよかったと思います。私自身が、自分から英語を使おうと思うようになりました。10年・20年後は、確実にデジタル教科書が普通になっているので、その時のことを考えて授業を行うことが必要だと思います。

 

・デジタル教科書は、一度使うともう元には戻れないと思うほどです。だから、停電が怖い! そのために、停電になっても同じ授業ができる技量は持っていなければと思っています。10年後は、全ての授業場面で使われるようになっていると思います。

 

・デジタル教科書には、「出会えてよかった、ありがとう」という気持ちです。生徒の実力を上げるためには、生徒を乗らせるリズムを作らないとダメだと感じています。そのために、生徒にいちばんいい形を作ることができるよう模索していきたいと思います。

 

・デジタル教科書は魔法ではありません。使ったからと言って、すべてががらっとよくなるわけではないと思います。ですから、今までやってみて経験的によかったものにデジタルを入れることで、より効率的に進められるようになる、と考えればよいと思います。教科書会社さんへの希望としては、できれば使い勝手をもっとよくしてほしいですね。

 

・先生にとっては、確実に便利なものだと思います。ツールとして目立っていますが、要は黒板やチョークの代わりです。今は過渡期で、学校の環境やICTへの取り組み方で違いが大きい状態ですが、いずれはこれが当たり前になってくると思います。デジタルをうまく活かせば、個別指導が可能になります。私自身、今Moodleを使っていますが、今日もこの場に質問が来ています。そのうちに学校の先生も医者と同様、24時間生徒の相手をしなければならない時代がやって来るかもしれません。

 

■米田謙三先生のまとめ

米田謙三先生
米田謙三先生

今日は、実際にデジタル教科書を使っている先生方から、授業を行う上での利点と課題をお話しいただきました。デジタル教科書を使うことにより、授業の中で一斉・個別・協働といういろいろなパターンの活動の場面を作ることができるようになりましたが、大事なのは、(授業の)どこで・どのような活動を・どのように行うか、という授業デザインをしっかり行うことです。

 

授業の現場にタブレットやデジタル教科書などデジタル機器が入ってきたことで、学習者一人ひとりの関心・理解を把握することが可能になりました。つまり、今までの一斉式の授業の限界と言われていたことが、これらを使うことで乗り越えることができるようになりはじめたのです。

 

英語の授業でのデジタル機器を使うことの利点は、「繰り返す」「止める」「戻る」が簡単にできることです。生徒の理解や反応に合わせて、これらの機能を臨機応変に使っていくことが、授業の効果をより高めることになります。その一方で、これらICTを使う上では、当然著作権や情報モラルといったことに、教員自身が配慮していくことも重要です。

 

今日の事例紹介でも、先生方はデジタル教科書をそのまま使うのでなく、PowerPointやKeynoteなどのプレゼンソフトを使って手作り教材を使って、効果的な授業を行っておられました。こういった教材は一度作ってしまえば、その後は手直ししながら何度でも使えますが、やはり最初に作るのは時間も手間もかかりますし、加工の仕方もなかなかわかりません。そこで、先生方が作られた教材を共有することが大事だと思います。他の先生が作ったものでよいアイデアをもらったり、自分用にカスタマイズしたりすることで、一人で悩まずによりよい教材ができるようになると思います。

 

これからデジタル教材つくりにチャレンジしようという先生方のために、私と、唐澤先生が作った本がこのほど出版されましたので、ご紹介します。初心者の方のためのプレゼンソフトの「基本操作早わかり」や、必要な機器や設備の選択のポイントなども載っています。ぜひ参考になさってください。

 『英語デジタル教材作成・活用ガイド』

(唐沢博・米田謙三 著、大修館書店 1800円+税)

 

最後にまとめます。授業でデジタル教科書を使う際には、授業デザインをしっかり行い、何のためにデジタル教科書を使うのか、という目的を明確にしましょう。生徒が英語を使えるようにするために、どのような活動が必要かを考えてみましょう。

 

また、校内のICT環境が整っていることに越したことはありませんが、お金をかけなくてもその環境に応じた工夫が可能です。今回発表された先生方の事例の中には、必ずしも十分でない環境の中でも、効果的な活動をされているものがいろいろありましたので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。最後に、発表の中でも出てきましたが、デジタルが万能であるというわけではなく、例えば紙の辞書を引くなどデジタルを使うことで失われる能力もまた大事であることも伝えていく必要があると思います。先生方の工夫で、授業が一層活性化することを願っております。

 

大阪私学教育情報化研究会 ICTデジタル教材勉強会での発表