中高生のネット利用のトラブルと問題点


4.LINE上で横行する昨今のいじめ

「悪ふざけ」感覚でクラスメイトをからかう

 

今お話したように、子ども達は人とのつながりを求めてソーシャルメディアを積極的に利用しています。そしてそこではいろいろな問題も生じます。その最たるものが「いじめ」でしょう。近頃はLINEのグループの中でのいじめというのが本当に盛んで、トラブルや不登校の原因として、今やどこの中学校・高校でも先生方の悩みのタネとなっています。

 

たとえば、学校のそれぞれのクラスで、そのクラスのLINEというものができます。クラスのほとんどの子が入っているLINEのグループです。そこで何かの拍子に、特定の誰かをターゲットとして、その子をからかったりバカにしたりするような書き込みが始まって、みんなでそれを笑ったりする。しかも、それが家に帰った後もずっと続く。これがLINEでのいじめの典型的な形です。よそで陰口を叩くのではなくて、ターゲットとなった子もそのグループの中にいるのです。中には、そのことを指摘して周りを諌めるような書き込みをする子もいますし、それをきっかけに、皆がハッと我にかえって「やりすぎはダメだよね」と事態が収束することも珍しくありませんが。

 

でも、そんなふうに誰かから止めるきっかけを与えられないと、そのまま調子に乗って特定の子をおもちゃ扱いし続けてしまうのです。そして収拾がつかずに、ターゲットにされた子が、心ない悪口の数々を読んで、不登校になったりする。あるいは、笑いものにされた子が別のグループを率いて報復に出て、いじめのきっかけを作り出した子を集中的に攻撃して、逆にその仇の子を不登校や転校に追い込むというケースもあります。

 

話を聞いてみると、きっかけは案外些細なことなのです。クラスでちょっと悪目立ちしたのでからかった、とか。驚いたことに、こうしたいじめの実例を話してくれたある女の子が――ごく普通の子ですが――取材の中で「これって、別にいじめでもなんでもないんです」と言いました。子ども達にしてみれば、日常的な単なる悪ふざけのつもりなのだそうです。しかし、きっかけはどんなに些細であっても、結果的に転校や引きこもりといった事態につながっていくのですから、非常に重大な問題です。

 

しかも、書き込みが始まってエスカレートするまでがほんの数分の間の出来事だったりしますし、帰宅して、夜ふとんの中に入ってまでLINEをやり続ける子もいます。そのように、いつ自分がターゲットになるかわからないという中で会話をし続けるとなると、子ども達は「必ずその中にいないといけない」という“しばり”にとらわれることになります。この「同調圧力」が依存につながることは、すぐにご理解いただけるでしょう。

 

不登校の子もいじめの標的になる

 

LINE上でのいじめの中には、不登校の子に対するものもあります。不登校の生徒は学校から離れているので、本来いじめの対象にはならないはずですが、いまは登校せず家にこもっている子もLINEなどを通じて在校生とつながっていて、そこでいじめが起きるのです。

 

この例はちょっと酷いのですが、まずクラスのみんなで不登校の生徒の話をしていました。LINEを使って。そのうちに一人の女の子Aちゃんが、「学校においでよ」と不登校のBくんに歩み寄りの姿勢を見せて、二人だけのLINEを始めます。するとBくんもだんだん気分が良くなってきて、会話に弾みがつく。そこでAちゃんは「今度遊園地に遊びに行こう」とか書き込むのですね。それと同時に、不登校のBくんを誘っているその会話をキャプチャして――つまりスマホの画面を画像に保存して――クラスのLINEに載せ、「Bくんたら、調子に乗って一緒にデートするとか言ってる」みたいなことを画像付きで実況中継するわけです。そしてそれをみんなで見て笑う。

 

信じられないかもしれませんが、これは実際にあった事例です。不登校であっても、こうしたいじめの対象になってしまうのが現状です。スマホやLINEといったものを利用して、いじめが行われやすい状況になっていることは、やはり大きな問題だと思います。

  

このケースでは、文字によるいじめでしたが、もしどこかに呼び出して殴ったり蹴ったりといった手段に出ていれば、間違いなく傷害事件ですし、実際にそうした事件も起きています。

 

こうした事例は、本当に氷山の一角だと思います。スマホを手にした子ども達の世界ではこんなことが日常的に行われているのです。「LINEをやっていても地獄、やらなくても地獄」という状況だと言っても過言ではないでしょう。

 

証拠を保存しておくことが大事

 

では、そうしたネット上でのいじめには、どう対応すればいいのでしょうか。

 

一般的には、まず学校に相談することですが、最近ではその段階を飛ばして、ストレートに警察を訪ねるケースも増えています。どちらにしても、何が行われているかがわかるメールや書き込みをしっかり保存したり、スマホの画面をキャプチャしたり、写真を撮ったりして、いじめの証拠を必ず手元に残しておくことが大切です。

 

このほかに、プロバイダに相談する、掲示板の管理人に書き込みの削除を依頼するといった対応もありますが、詳しくは文科省が『「ネット上のいじめ」に関する対応マニュアル』(※)という文書を作っていますので、それをダウンロードして一度目を通していただくとよいと思います。

  

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/11/08111701.htm

プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー