情報処理学会第76回全国大会 イベント企画

セッション「大学入試における『情報』入試のあり方と可能性」

高等学校における情報科の授業と情報入試

中西渉先生 名古屋高等学校 情報科主任


中西渉先生
中西渉先生

高校現場での教科「情報」の反応

 

私の勤務する学校は、私立の中高一貫の男子校です。1学年12クラスで、1学年12クラス規模の学校で、修学旅行は3つの班に分けないと飛行機に乗れません。もともと私は数学教員として赴任しましたが、2000年に現職教員講習会を受講して情報免許を取得しました。

 

高校での教科「情報」の位置づけですが、「情報って要りますか?」と校長に尋ねると「もちろん要るに決まっとる」と答えます。「じゃそのために、目的を達成するためになんかリソースを注入してくれますか」と尋ねると「もちろんノー」(笑)というのが現状です。

 

「情報」に対して周囲がどんな思い込みを持っているかというと、一番典型的なのが「Officeの使い方を教えてくれるんでしょ」です。大学の先生からよく言われるのは「Officeばかり教えてどうするの」という一方、「Officeくらい使えるようにしてくれないと困りますよ」です。実はこの二つは矛盾していません。確かにOfficeばかりやっていては困りますが、コンピュータを使う以上、正しい使い方を教えることは必要です。ところが、高校で時間を取ってOfficeの使い方を教えましょうということになると、「そんなこと、入試に出るんですか」と言われてしまう。

 

つまり「教科『情報』は入試科目ではない」。これが大きいのです。そのために情報を軽んじてしまう傾向がある。生徒がそう思っているから教師もそう思ってしまうのか、その逆なのかわかりませんが。「最近は、情報入試をやっている大学もありますよ」と反論しても、「それは一部でしょ。そのための授業のコマ数は増やせませんよ。補習か個別指導で対応してね」と言われてしまいます。

 

情報の教員は、学校の中でも人数が少ないという問題もあります。標準単位数が2単位なので、立場的にも弱い。高校によっては、専任の教員がいないところもありますし、非常勤の先生だけで回しているという場合もあります。また、愚痴になりますが情報教員の研究会の人数が少ないという問題もあります。数学であれば、各高校に教員が5人はいますから、50校あれば500人の研究会ができる。情報の場合、人数が少なくて成立が難しいということがあるのです。

 

情報入試で何が変わるか?


情報入試は、確かに今は一部の生徒だけが受験していますが、もっと広く行われるようになれば。まず他教科からの視点でいろいろ要望されることが出てきます。たとえば、出題を明確なルールでやってほしいとか、きちんと白黒のつけられる問題を出題してほしいといったことです。

 

明確なルールには、学習指導要領に添っているかどうかということがありますが、それ以外に他教科には長年経験的に蓄積された「業界標準」とも言うべき、暗黙のルールというものがあります。数学の先生であれば、この一線を越えたらどこの大学も出題しないだろうといった線引きを自分の中に持っておられます。

 

国語であれば、例えば文字数制限の問題文作成では、200字以内という文字数制限であれば、8割に当たる160字より少ないと大減点の対象になるとか、物理で「なめらかな」と言えば「つやつやしている」という意味ではなく摩擦ゼロのことであるなどです。これに対して、情報科ではそれがまだ明確になっていません。たとえばKやMが 1000倍か 1024倍かということや、KiやMiのような接頭語の扱いが何を表すか、というようなことです

 

他教科のように「白黒つけられる問題でないとダメ」ということについても、難しい問題があります。たとえば「情報」の授業で著作権を教えますが、法律関係の問題は入試問題にするのにそぐわない問題をはらんでいます。情報モラルの問題も同様です。モラルは程度の問題という点が多いですし、本人の情報リテラシー次第という面もあります。具体的なITのサービス名を出さないと出題の意味がない場合、どうすればいいでしょう? 「You○ube」とか「ニ○ニコ動画」とか、伏字にするのでしょうか。意味のない伏字にしても仕方ないという感じがします。


さらに、情報入試が今以上に広まった時、受験勉強のための反復練習のできる問題集がまだないということも問題になってくると思います。

 

高校の情報科教師が、情報入試に望むこと

 

「情報」の高校教師の立場から、情報入試に望むことを申し上げます。「高校現場の声」を無視してください(笑)!これは、かなり本気で思っています。高校現場の声には、「教科書の範囲を逸脱しないで」とか「出題範囲を明確にしてほしい」、「定番タイプの問題を入れてほしい」、「勉強しやすくなる問題の出題を」といったものがあります。


しかし、「教科書の範囲を逸脱しないで」と言っても、教科書が変わる場合、検定を持っている間、情報入試の内容がそれに縛られるのはいかがなものでしょうか。そのあたりは、ぶっちぎってやっていただければよいと思います。その分、情報教員は勉強をしなければなりません。でも、教師は学ぶことをやめたら、教えることをやめなくてはいけないという気持ちを持つべきと思います。