明治大学情報コミュニケーション学部2013年度情報入試の速報

山崎 浩二 明治大学情報コミュニケーション学部


情報コミュニケーション学部とは


明治大学情報コミュニケーション学部は2013年度から「情報」の一般入試を始めました。現時点では、入学手続きはまだ終わっていないため、どのくらいの学生が入学するのか、試験の手応えはどうだったか等の分析はこれから行う予定です。したがって本日は、「情報」入試を導入した目的についてお話をさせていただきます。


まず情報コミュニケーション学部の特徴を説明します。当学部は、「情報社会とコミュニケーションの解明」を目的に、2004年に設立されました。文理融合的な学部ではありますが、教員陣は社会科学系が多く、社会科学系の学部に分類されると思います。とはいえ社会科学の分野に限らず幅広く学んでいける学部にしたいと考えており、メディアリテラシーや情報リテラシーに関する教育を重視しています。

 

2013年度からはカリキュラムが変わり、「創造と表現」に関する領域を充実させる予定です。情報を受け取るだけではなく、アウトプットして表現する領域を充実させようと、カリキュラムの改訂を行い、この後教員を何人か採用する予定があります。

 

 

情報で受験できる入試方式を新設

 

当学部は社会科学を中心とする文理横断的な教育をめざしていて、そのために「多様な背景を持った学生が集う環境が理想だ」という思いがあります。いろんな得意分野を持っている学生が集まって、相互に刺激し合って高め合ってほしい。そのために入試方式でもできることがあるのではと考え、具体的に2010年度後半から検討を始めました。その中で「情報」入試が出てきました。

 

2013年度入試の変更点としては、まず学部の募集定員を、400名から450名に増やしました。増員の内訳は、
・従来型(「A方式」)の一般入試で290人→310人の20名増
・「センター試験利用入試」で6科目方式を新設して募集定員10名
・一般入試に「B方式」を新設して募集定員20名。

 

一般入試を「A方式」「B方式」という2つの方式に分けました。「A方式」は従来通り、「英語」「国語」「選択」で、「選択」は社会の日本史、世界史、政経、もしくは数学から選択する方式。「B方式」は、情報入試ということで、科目としては「英語」「数学」「情報総合」を課しています。

 

B方式の英語と数学は、A方式と同じ問題を使用しています。学部の全教員を合わせても40数人しかいませんので、何種類も試験問題を作るのは難しいためです。

 

学内議論では、「国語との選択にしては?」という意見も出ていましたが、「それではインパクトもないし、受験する人がいないだろう。この情報入試を受けて入ってくれる学生をぜひ取りたいというメッセージを強く発信しなければ」ということで、選択式はやめ、募集定員を明確にしました。

 

従来からある「センター試験利用入試」の3科目方式では、「英語」「数学」「理科」で入試を受けることができます。ここには、純理系的な学生に入学してもらいたいという思いがあります。実際に入学後の成績を見ると、センター試験利用入試の「英語・数学・理科」で入った学生の成績が良く、かつ各先生方に伺うと、成績だけではなく卒業研究でも良い論文を書いているという状況が見られています。理系の素養を持っている学生が中核になり、かつ周りに対する良い影響もあると思われるので、そういう層にぜひ入学してもらいたいと考えています。その一環として「B方式」、情報入試を考えたわけです。

 


情報入試の志願者は81名
 
今年度の出願状況を見ると、B方式の志願者数は81名でした。欲を言えば、もう少し多くの受験生に志願してほしかったところですが、そのための準備が十分にできていなかったとも思います。情報入試の導入の検討を始めたのが2011年度の初めですので、準備期間が短かったかもしれませんが、「今後の入試を考えたときに情報という科目は興味深い」という動機は強く、「ならば、試験的にせよ実施してみよう」というフロンティア精神で始めました。合格者数は25名です。これは、当学部としてB方式受験者にぜひ入学してほしい、ということを考えたうえでの数字です。

 

 

情報入試で求める学生像 -理系の素養を持ち、社会問題に関心のある学生

 

当学部は何を意図して情報入試を始めたのかというと、まずは、「高校で理科系科目を重点的に学習して、社会問題に関心のある学生に来てほしい」という思いがあります。先ほど、当学部では理系の素養のある学生が重要だと申し上げましたが、かつ社会にも関心がある学生に来てもらいたいと思っています。カリキュラムの中には社会学系の科目がたくさんあるので、ミスマッチになってモチベーションが下がっていくことは避けたいと考えています。

 

他には、情報技術が社会に及ぼす影響を考察したいとか、コミュニケーションのあり方について関心がある、教科「情報」の教職免許をめざす、こういった学生像を追及していきたいと考えています。

 

入試科目名を「情報総合」とした意図の中には、単に「情報」としてしまうと情報技術だけが強く出てマイナスなのではないか、学部としては情報技術だけではなく社会全般に興味を持ってほしい、こういった考えがあります。技術を軽視するわけではありませんが、もともと社会科学系の学部ですので、社会を構成する要素として情報が果たしている役割についても考えてもらいたい。そういった意図を込めて「情報総合」としています。

 

 

細かい専門知識は問わず、論理的に考えていけば解ける問題をめざす

 

出題に関しては、通常の授業と情報社会への関心を問うような内容を主体にし、細かい専門知識は問わないようにしたいと考えました。当学部の一般入試は5000名前後の志願者がいますので、あまり凝った問題を作ると採点ができないということもあり、従来型の入試の枠組みの中では、細かい専門知識を問うような問題が並ぶのはある程度避けられない状況なのですが、そうではないことを、この「情報総合」の中ではできるのではないかと考えています。

 

他方で、専門的な知識は問いませんが、知識が全くなくても困るので、「一般的だ」と思われる知識については、ある程度前提にせざるを得ないだろうと考えています。細かい知識の有無を問うのではなく、一般的な知識を持っていて、論理的に考えていけば解けるような問題をめざしています。

 

もう1つ重視しているのは「論理的な表現」で、自分の考えを的確にアウトプットできるかを問う問題をめざしています。

 

 

「情報総合」の出題分野  ー「情報A・B・C」の3つに共通の基礎部分

 

今年度の「情報総合」の出題分野は、「情報A・B・C」の3つに共通の基礎部分としています。学習指導要領等を基に、出題分野を下記のような形で分類しています。

 

これに沿った形で出題の分野を考えていきますが、教科書を若干読めばすぐできるという形の問題ではありません。そういう意味では範囲逸脱と言われるのも覚悟の上で作問をしています。ただ、情報の授業で学んだことがぜひ役立つような問題にしたいと考えてはいます。

 

○ 情報及び情報技術を活用するための知識および技能
 (1)情報機器や情報ネットワークの仕組み
 (2)言語を使った正確な情報伝達
○ 情報に関する科学的な見方や考え方
 (3)データやグラフなどから知見を読みとる
 (4)論理的な思考に関する問題
○ 社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解する
 (5)著作権法など、情報にまつわる規制
 (6)情報社会における生活や産業の現状理解
○ 社会の情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度
 (7)データや主張を多角的な視点から批判的に読み解く


 

2013年度入試問題から

 

今年度の入試問題から、一部をお見せして解説させていただきます。

 

今回の試験問題は150点満点で、難易度に関しては手探り状態でしたが、全体の平均点は事前に想定した点数を上回っていました。

 

上記は、大問の1番から問1をお見せしています。一般的な知識だとは言いませんが、情報の勉強をしたのであれば、こういうことに対してはきっちり答えてもらいたい、という問題にしてあります。大問1の平均点は、事前の予想よりは高いものでした。

 

※大問1は、(問1)通信技術の普及動向に関する記述、(問2)電子メールの利用に関する記述という形で、フィッシング詐欺の話や法整備の話、(問3)が知財、(問4)が個人情報、(問5)が情報セキュリティーに関する記述になっています。

 

続いて大問の2番です。 これは、本学部のホームページで事前に公開した模擬問題1と同じ形式の問題です。

 

右側に図がありますが、それをどう描くかを言葉だけで説明しなさいという問題です。穴埋めですが、それなりの量の文章を書かなければいけないという形になっています。出題のねらいとして「論理的表現」を見ると申し上げましたが、作図の手順を言葉できちんと人に論理的に説明できるかを問うことを意図しています。

 

大問1と同様、この問題の平均点も、事前の予想より高いものでした。模擬問題の中に含まれていたので、模擬問題を見た受験生は、対策というか感覚を掴んでいたということがあるかもしれません。

 

大問の3番です。論理的な思考に関する問題で、論理式を二分木(にぶんぎ)で表した二分決定グラフを題材にしています。

 

こちらはグラフの見方を説明して、下からその条件に合うものを選びなさいという形です。高校では二分決定グラフというのはおそらくやっていないと思うのですが、中身は知らなくてもルールは書いてあるので、そのルールを適用して自分で答えを見つけてほしい。知識ではなくて、書いてあることを読んで考えて、それを新たに適用して答えを導き出していくことを問う問題です。

 

上記は、大問の4番。2ページ分くらいの長文を読んで、問いに答えていくという出題になっています。

 

今年は、「共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式」に関する文を使いました。国語っぽいものですが、中身は暗号の話です。情報技術に関わる内容で、文章を読んで答えてもらうものになっています。

 

その中で特に受験生が苦労していたと思われるのは、小問の2番と4番の計算問題でした。数式が書いてあるわけではなくて、問題を読んでどうなるかということを考えて計算する、という問題です。具体的には、公開鍵暗号を総当たり式でコンピューターで解読するのに、どのくらいの時間がかかるかというものです。単に国語的な能力だけではなくて数理的能力も見たいということもあり、こういう問題を出しました。

 

他には、(問1)はシーザー暗号の一例を示して、元の復号をしなさいという問題。これは易しいヒントが書いてあるので、比較的良くできていました。(問3)が「デジタル信号とは言えないものを下記の中から選びなさい」という問題、(問5)は「暗号要約文は通常何と呼ばれているか」という知識を問う問題、(問6)は暗号の認証局に関する問題、(問7)は空欄に、公開鍵か秘密鍵のどちらかを埋めなさいという問題を用意しました。

 

最後は論理的な表現を見ることを目的に、記述式で以下の3種類の問題から1つを選んで、80文字以内で解答しなさいという問題を出しました。もっと長い文章を書いてもらいたいとは思うのですが、採点の都合もあり今回は80字としました。

 

【質疑応答】

 
―入試問題を作る時に考えるのは、「合格してきた人たちはこういう知識はもう持っているはずだ」というのがあって、大学のカリキュラムの中身と入試を連動させるというのがあると思います。入学してきた人の知識とカリキュラムの関係をどのように捉えていますか。

 

山崎先生

情報入試では、一般的な知識と論理的思考力・表現力を問うことを目的としています。当学部のカリキュラム作成のポリシーとして、「知識だけではなく、論理的な考え方や表現力を養う」ということが大きな柱となっています。その意味で、カリキュラムと入試問題の連携を図っています。

 

 

―情報総合の出題分野で「情報A・B・Cの共通の基礎部分」と書かれていましたが、これは受験生に明示されていたのかをお聞きしたいです。また、共通の基礎を作るのは私の経験では大変だったということがありまして、どういう工夫をされたのかを教えていただきたいと思います。

 

山崎先生:受験生に対する告知は、ホームページで模擬問題を載せた時に合わせて、冒頭のところに「こういう分野から出ます」というようなことを書いて公開していました。

「共通の基礎部分」というのは、出題分野を考える時にこのような枠組みで取り出したということで、そこから先は個々の分野に沿った形で作題をしていこうということです。ですから、情報A・B・Cの教科書に「共通に書いてある内容」というよりは、いずれの授業であっても、指導要領に沿って勉強した受験生の皆さんが論理的に考えることで解答できる問題をめざして作題しました。


―情報入試で求める学生像は「高校で理科系の科目を重点的に学習し」とおっしゃっていましたが、新課程の「社会と情報」は(文系寄りの内容ですが)どのように捉えていますか。

 

山崎先生:学部の意見ではなく私個人の意見ですが、私自身は「社会と情報」は文理のどちらでもない、逆にそこが良いところかと思います。これからの世の中を考えていった時に文系とか理系とか分けないものがあっても良いでしょうと。新課程では「情報の科学」「社会と情報」に分かれますが、中間的な領域はどちらにも含まれていると思いますので、そういうところが情報の魅力だろうと思います。ですから、個人的な感覚はどちらでもないということです。

 


―B方式だけで「情報総合」を出題されている理由を教えてください。

 

山崎先生:検討段階では「選択科目の中に入れる」というプランもありましたが、それでは受験生がわざわざ情報を選択しないのではと考えました。
私たちとしては受験生に受けて欲しい、チャレンジしてもらいたい。情報に強い興味を持ち、論理的な考え方、表現力に優れた学生に是非入学してほしいということがあります。「情報総合」を選択科目の中に入れて埋もれさせてしまうとその目的が達成できないと考え、「こういう学生は是非うちの学部に来てください」ということを伝えたいので、別方式にして定員を20名にしました。うまくいけば、募集定員を増やしていきたいです。

 

 

―社会科学系の先生が多いように思いますが、入試科目に情報を入れるにあたって反対はなかったですか?

 

山崎先生:積極的な反対はなかったです。学部そのものが、社会科学を中心とした分野横断型の教育をめざしているので、やってみましょうと言ってもらっています。これは自分の思い込みかもしれませんが、新しい事をやるのに保守的に考える人はそれほど多くないと思います。また、情報入試が実施できたのは、社会科学系の教員も中心メンバーとして検討したことが大きいと思います。

 

 


 

●山崎浩二先生プロフィール

やまざき こうじ。1967年生まれ。明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授
明治大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。専門は、LSIの故障検査技術に関する研究。1994年から2003年までの10年間は明治大学情報科学センターで、2004年からは情報コミュニケーション学部で文系学生に対する情報教育に携わる。