2025年の高校教科「情報」入試を考える

~企業や社会が求める、情報に関する能力とは

独立行政法人情報処理推進機構  IT人材育成企画部 片岡晃氏

3年半前、私は日本情報科教育学会で「教科情報を考える」というパネルディスカッションをしました。このほど、その時の内容を確認していたところ、「これからはITを作る側の人だけではなく、文系・理系に関わらずITを使う人の時代になるため情報が非常に大事になる」ということを発表していました。

 

そのパネルディスカッションから3年半で、実体はともあれレベル感やフェーズが変化してきていることを感じます。

 

思考力・判断力は企業からも求められている

まず今、企業や産業がどのような人材を必要としているかですが、これまで重視してきた人材育成の方向性や、確保しようとしてきた人材像とは、明らかな変化が生まれています。

 

IPAが毎年IT企業やユーザー企業等を対象としたIT人材動向調査、およびIT技術者個人を対象とした意識調査をもとにまとめている「IT人材白書」によれば、例えば企業の求められる人材は、これまで重視してきたのが「担当職務の基礎技術・知識を身に付けた人」や、「指示を正確に理解し行動できる人材」だったのが、「自ら考え行動できる人材」や、自社にはない、例えば「新しい発想を持った人材」といった形に変化しています。

 

一方理系的な研究開発人材では、「創造的な人材」や「戦略を立案できる人材」の不足などが懸念されています。それぞれの専門分野の技術者はいるものの、「創造的に」「戦略立案」に携われる人材が非常に少ないということが長らく問題となっています。このようなことも、次期学習指導要領改訂の背景の一つにもなっているのではないかと思います。

 

IoT、ビッグデータで産業構造が変わるということ

次に、IoTやビッグデータ、AIなど情報科学分野の課題についてお話します。

 

本や音楽、映像などはすでにデジタル化が進んでいますが、これらの業界の変化からもわかる通り、デジタル化、さらにIoTやビッグデータの活用によって産業構造は大きく変わります。企業の寿命は30年といわれますが、その期間が短縮されるとともに、産業そのものが大きく変化することが予想されます。

 

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例えば近い将来、自動車の自動運転が実現するでしょう。すると、それに伴う保険サービスはどう変化すべきか、といった課題が出てきます。このように、デジタル化によってこれから大きく産業が変わっていき、さらにその周辺の分野にも予測できない変化が起こり得るということです。

 

この変化にどのように主体的に向き合い、自らの可能性を発揮するかが大切ですが、このためにもどのように「情報」に関わるかを学んできていることが必要になってきます。結果として、その人がより良い社会を作ったり、幸福な人生を送ったりできるということにも結び付いてくるのではないかと思っています。

 

そのような背景もあり、大学の情報工学系の学部、大学院の卒業生に対する企業の需要は年を追うごとに増加しています。優秀な学生は、日本のみならず海外、例えばアメリカのシリコンバレーなどに就職する人も増えてきているようで、情報を学んだ学生に対するニーズはますます増えていると言えます。

 

産業構造が変わると求められる能力も変わる

では、このような時代に企業がIoT関連技術を活用して事業変革・新事業・新サービスの創出を実施するために求められる能力や技術力は何かを、先にお話ししたIT人材白書2016から見てみましょう。

 

「必要な能力」には、ビジネスアイデア構想力、コミュニケーション能力、マネジメント能力・イノベーション関連知識など様々な切り口がありますが、特に多く求められているのが、「ビジネスアイデア構想力」であることがわかります。

 

一方、「必要な技術力」では、「技術全体を俯瞰し、全体を設計する能力」が最も重視されていますが、これはつまり思考力や判断力を駆使した能力につながると考えられます。

 

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IT・ビッグデータ・AI時代に必要とされるのは、具体的には下図に挙げたような人たちです。今までも専門性を持った技術者はたくさんいましたが、それに加えて、技術をビジネスとマッチングさせてマネジメントしていく能力、技術を俯瞰して全体を設計する能力、技術を翻訳してわかりやすく表現し、自社の事業に置き換えられる能力を持った人が求められる、ということになります。

 

このような人材を育成するために、大学では実践力を高める教育としてPBL(Problem Based Learning:問題解決型授業)といわれるものがかなり増えており、それらを学んだ学生の評価は企業でも非常に高くなっています。

 

さらに企業では、新たな人材育成の仕組みが出てきています。例えば社内の事業コンテストや、社内ベンチャーの支援、部門や組織を超えた交流を通じて人の幅を広げたり、多様性を受容して人を動かす力を育てるといった動きが、ここ数年非常に盛んになってきています。またハッカソン(※)などの、現場での取り組みなども存在します。さらに、今さかんに行われている社外のコミュニティー形成などは、10年前にはほとんどなかったものです。

 

※《hack(ハック)+marathon(マラソン)からの造語》ソフトウエア開発者が、一定期間集中的にプログラムの開発やサービスの考案などの共同作業を行い、その技能やアイデアを競う催し。期間はふつう数時間から数日程度。企業内で研修の一環として行われるほか、大手企業が広く外部から参加者を集めて自社の製品やサービスに役立つアイデアを競わせたり、ベンチャーキャピタルによる出資対象の選定に利用されたりする。[「デジタル大辞泉」より]

 

欧米でもこのような傾向は同様で、情報を専門にしてきた人に限らず、新しいビジネスを起こせる人には、デジタルのビジネスにおける予測能力や理解力、チームを引っ張る力が必要であるため、これらをどのようにして体系的に学ぶかについて様々な発表がされており、我々も情報交換やディスカッションに参加しています。

 

様々な機能を組み合わせて活用する思考力・判断力・表現力

これからのIoT・ビッグデータの時代に求められるのは、技術者である・ないにかかわらず、技術を俯瞰してビジネスにつなぐことができる人材です。さらに、新しい分野のスペシャリストと、創造的な人材。日本のイノベーションを起こすためには、このような人材が必須です。

 

そのような人材の育成で重要なのは、いろいろな能力・特長を持つ人や、自社とは違う新しい分野の人を入れていき、クロスファンクションで行う取り組みが重要であると我々は考えています。そういった意味合いでも、「思考力・判断力・表現力」を重視する活動が有効であることは明らかであると思います。

 

情報処理学会第79回全国大会/文部科学省大学入学者選抜改革推進受託事業シンポジウム

パネルディスカッションより