シンポジウム「2024年度高校教科「情報」入試を考える-思考力・判断力・表現力を評価する-」

パネルディスカッション

[パネリスト]

鹿野利春先生(国立教育政策研究所教育課程研究センター)

萩谷昌己先生(東京大学)

久野靖先生(情報処理学会/電気通信大学)

加藤光先生(大阪府高等学校情報教育研究会/大阪府立岬高校)

片岡晃氏(独立行政法人情報処理推進機構)

[司会]

萩原兼一先生(大阪大学)

 

※文中青字は質問を表示

 

萩原先生(司会)

ここまでの講演について、ご来場の皆様からの質問を講演者の方にお渡ししてあります。順番にご回答ください。

 

鹿野利春先生
鹿野利春先生

鹿野先生

まず「情報セキュリティはどのように扱うか」という質問が来ていますが、これは全ての学習内容に当然入っていることとしています。また、「大学入試で情報科は実際に出題されるか」ということについては、これを判断するのは別の部局になるので、私どもは「情報科は必要だからぜひ出題してください」ということを伝え続けていくことになります。

 

さらに、「教えられる先生をどのように養成するのか」という質問もあります。これについては、学習指導要領を作りながら、例えば教員養成・研修のプログラムの作成に同時にとりかかる予定です。

 

研修の対象は、情報科の教員全員参加(悉皆:しっかい)とすることが必要ではないかという議論があります。各都道府県の情報科の研究会では、そこにさらにプラスアルファでするという形を取ると、実態に合わせることができると思います。ただ、この研修については大学等諸機関の協力が必要であり、そこは皆様にぜひお願いしたいと思います。

 

久野靖先生
久野靖先生

久野先生

まず、「今回紹介した問題は、情報というより国語の問題ではないか」という意見があります。これについては、思考力も判断力も表現力も一般的なところでは情報科固有のものではないので、おのずとこのような形になると思います。もし情報科に特化した問題にするのであれば、テーマや出題する問題文の内容に情報科学や情報科のものを使えばよいと考えています。

 

また、「問題が易しすぎるのではないか」という意見もあります。今回は、あくまで思考力・判断力・表現力の定義はどのようなもので、それに対する作問方法はこれならどうでしょう、というところを提案しているので、問題の難易度をいじるのはこの後の問題であることをご理解いただきたいと思います。

 

「具体的に情報科の問題として作問するのはどのようにしたらよいのか」という質問が来ています。例えば、情報の教科書の本文からいくつかキーワードを抜いて穴埋めをさせるのであれば、これは知識問題です。一方、教科書の文章(A)の内容を、異なる表現の文章(A’)で説明し、AとA’に出てくる二つの言葉の関連を問う形にすれば、Tc(connection:関連)を測る問題になります。

 

「こういった作問例が出て来ると、学習塾などが対策問題を作ってしまって、パターン化してしまうのではないか」という質問も来ていますが、これについては、学習塾が現実世界の問題に対応するという点で言えば、私個人はむしろウェルカムであると思います。こういったパターンを練習することで、コンピューターのプログラムを書くための思考のトレーニングになり、そのために学習塾などが頑張るのであれば、それはそれでよいと思います。これにはご異論があるかと思いますが、知識を覚え込む勉強だけよりは、ずっとよいと思います。

 

萩原兼一先生
萩原兼一先生

萩原先生(司会)

高校の現場の先生方から、先ほど久野先生がお話しした思考力・判断力・表現力(T・J・E)を評価する問題について、私たちが考えたこの枠組みが、高校の教育で育成されているそれらとマッチングができているのか、そのあたりもご意見をいただければと思います。

 

「問題が情報らしくない」ということについては、今の久野先生の回答の通りです。我々はすでに情報の問題をたくさんストックしていますが、今年7月に模擬試験を行うことになっているので、詳細はあまりクリアにできないところがあることをご了承ください。

 

Q1(大学教員)

今回のT・J・Eで、T(思考力)だけが四つに分かれていて、J(判断力)とE(表現力)は一つしかありません。この分類については相当議論されたと思いますが、この分類の判断基準をぜひお聞きしたいです。

 

久野先生

これは私たちも非常に苦労しました。全て『考える力』ですが、その中で表現力はアウトプットにする様々なバリエーションで見ることができると考えました。判断力はほとんど思考力と被りますが、その中であるリストの中から選ぶ力を判断力だということにしました。

 

萩原先生(司会)

補足しますと、判断力も表現力も、検討の過程ではいくつかに分かれていましたが、現在は一つに統合されています。思考力に関しては、別々の考え方だろうということで四つに分かれているという状況です。

 

Q2(高校教員)

実際に高校の授業をどのように行うかと考えると、正直なところ戸惑いのほうが大きくて、具体的なイメージが湧いてこないです。おそらく、この会場にいらっしゃる高校の先生方も同じような感覚ではないかと思ったので、口火を切らせていただきました。

 

久野先

我々はこの事業に取り組むにあたって、思考力・判断力・表現力とは何か、どのように定義できるかということを考えてきました。そうすると、これらは様々な問題解決をするに不可欠な力であると。その意味で、先生方が「文章を読んで行く時に、こういったことを意識することが必要だ」などと生徒たちに意識させながら授業を進められるようになればよいと思っています。

 

Q2’(高校教員)

ということは、今の情報の授業では物足りないということなのでしょうか。どういう授業をやれば、今お話しされたような力がついていくのかというイメージが湧かないのですが。

 

久野先生

そのあたりの現状については、先生方の方がよくご存知と思いますが、教科書に書かれていることをこなすだけで、考えるというところまで行っていない授業が多いと思います。そして考える余裕がある時に何をしたらよいかということで、今日お見せしたような類型にあてはまるトレーニングをすれば、それは筆記問題をやるよりも考える練習になるとか、そういった手がかりとして使っていただけたらよいと思います。

 

Q2”(高校教員)

例えばKJ法は、情報科だけでなくいろいろな教科の中で扱っていくという意味では、教科横断的、あるいは分野横断的なものであるということはよく理解できます。そうであれば、情報があえて背負い込む必要はないのでは、という考え方もあると思います。

 

Q3(高校教員)

今の質問にも関連しますが、今回紹介された例題は、記号や仕組みを理解した上で、頭で考えて解くという問題で、それはまさしく思考力の片鱗を測ることができると思います。ところが、これが入試に出るとなると、問題を見てパターン化し、自分の知っているパターンの中から対応を引き出していくというテクニック勝負になってしまう。そうなると、結局測っているのは思考力ではないということにはならないでしょうか。

 

久野先生

先ほどもお話がありましたが、例えば数学の問題は具体的な範囲が内容ごとに決っているため、パターン化して解法が覚えられるようになってしまいましたが、情報の分野での問題を解くということは、非常に一般的な記号の操作全てが範囲です。そうなれば、パターン化と言っても非常に広範囲の操作が考えられるので、狭いパターンに陥ることは避けられると思います。

 

萩原先生(司会)

今のご質問は別に情報に限らず、他の教科でも同様ですよね。

 

Q4(マスコミ関係者)

先生方は文部科学省が示した学力の要素分類に沿って作問されましたが、この分類について先生方はどうお感じになりましたか。先ほど「思考力と判断力は似ているところがある」というお話がありましたが、そもそもこの三つをなぜ評価しなければならないのか。思考力と表現力だけでもよいのではないか、など、実際に問題を考えてみられて、その手応えをお聞きしたいと思います。

 

二つ目は、あのような問題を作られたのであれば、もっと他の学力の要素があると考えられたのではないか。逆に、「このような要素を入れればもっと能力を的確に測ることができる」と思われたものはなかったのか、ということです。

 

そして三つ目としては、具体的に問題を考えられた時に、思考力・判断力・表現力の構造をどのように考えられたのかということを教えてください。

 

久野先生

講演でもお話ししたように、今回ご紹介した「思考力・判断力・表現力」はあくまでも試験問題を作るためのある種恣意的な定義で、それ以上の意味はありません。しかし、学力の三要素(学習指導要領での定義は「知識・技能」「思考力・表現力・判断力」「学びに向かう力・人間性」の三つ)の他の二つの「知識・技能」「学びに向かう力・人間性」とは別のものであり、またこのような力が必要なのだということはわかりました。

 

鹿野先生

「思考力・判断力・表現力」のそれぞれを明確に区別できるかというと、難しい面もあります。例えば表現するときに思考は当然必要ですので、それぞれが独立しているものではありません。ただ評価する際には、大きくまとめて見てしまうと、精密な評価にはつながらないと思います。一方で、それをどこまで・どのように分けるのか、そしてその分類した定義をそのまま使うのか、あるいはさらに練り直すのか。こういったことをさらに見直していきながら、授業にもつながるものにする必要があります。現時点ではまだ難しいところがありますが、議論を進めていく中で一層整理されていくことを期待しています。

 

一方で、教える先生方にも研修が必要になります。先ほど研修は悉皆にするべきと言いましたが、実際悉皆とするとなるとなかなか大変なことになると思いますので、研修については現在構想中と思っていただければと思います。

 

萩原先生(司会)

誤解のないように申し上げたいのは、我々の考えたT・J・Eに合わせて授業を行う必要はないということです。先生方が「思考力をつける教育とはどのようなものか」をお考えになり、実行されればよいと思います。それが、我々が考えたものとどのようにマッチングするかというのは、また別の問題です。

 

萩谷昌己先生
萩谷昌己先生

萩谷先生

この半年間の我々の議論は、初めにT・J・Eありきだったわけではありません。情報入試研究会で作成した模擬試験の問題や、情報科の授業で実際に行われている問題解決やモデル化といった内容、さらに情報科で目標とすべき高レベルの問題解決のテキストなどを参考にしつつ、実際に情報科で行われている教育や目標の中で、実際にT・J・Eがどういうふうに現れているかということを検討したところ、様々な問題や教育活動の中で、これを使って評価することがほぼ可能であることがわかりました。その結果として最終的にT・J・Eが出てきたと考えていただくのがよいのではないかと思います。

 

加藤光先生
加藤光先生

加藤先生:

先ほどから、今回紹介されたサンプル問題が実際の授業のイメージと結びつくか、ということが話題に上がっていますが、高校での授業と学習指導要領と入試の連続性ということでは、この事業の1年目にはまず出題方法の研究の部分に重点が置かれていると私は認識しています。

 

今回のアンケート調査を行うにあたって、先ほど鹿野先生のお話にもあった、育成すべき資質・能力の三要素や小学校・中学校・高校を通じた情報教育と高校の情報科の位置付けのイメージなどの資料を添付しました。現場の教員が、情報科で育成すべき能力・資質とは何かということに立ち返った上で、さらに次に出てくる学習指導要領や教科書を見て、そこで何ができるのかということを考えるべきだと考えたからです。

 

アンケートの自由回答の中にも、「思考力・判断力・表現力を育てる活動をふだんの授業に取り入れている」という記述がありました。実際に行われているこういった活動を、教員同士でどのようにシェアしていくのか、教員同志でどのように学んでいくのかが、これから教科指導の中で生徒の思考力・判断力・表現力を養うためには重要になると思います。

 

自由記述の中から、思考力・判断力・表現力を育てる活動に必要となると考えられる要点を五つにまとめました。

 

(1)教具を使ってどのような力を育てるかという授業設計。

(2)思考力を育てる問題を作るための、データのストック。具体的には白書のデータ、教材として計画的に煩雑化された資料や写真など。

(3)いわゆる指導用のツール。現場の先生方は授業のノウハウを欲しているので、具体的な教具、授業案、ワークショップのような教員養成も含めて。

(4)文系・理系を問わず興味関心を持てる内容であり、また高校卒業後すぐに社会に出る生徒にとっても必要な内容であること。

(5)日常的に使用できる学校のICT環境の整備。

 

そして、評価する対象や場が、日々の授業においてなのか、単位認定のための試験においてなのか、大学入学者希望者選抜テストなのか、各大学の個別選抜なのか、それぞれにおいて求められる・問われる能力や資質の量や内容が異なります。それぞれの評価の場ごとに評価手法も異なります。ペーパーテストに加えてルーブリック、パフォーマンス評価、ポートフォリオなどの評価手法をどのように組み合わせて使っていくことになるのか、今後の動向を見ていきたいと思います。

 

Q5高校教員

情報科ができた平成15年から、良い授業コンテンツやいろいろな実践事例が蓄積されてきていると思いますが、一方で全国的に見ると、まだ十分でない部分も大きい。それではいけないから、情報科の授業をしっかりやりましょう、ということでこのような事業が出てきていると思います。しかし、実際には人もお金も場所もなくて、現場では与えられたものをどうするかで汲々として、何とか抜け道を考えようという状況になってしまっているという現状もあります。こういった現場にうまくフィットしていくようにしていただけたらありがたいというのが正直な感想です。

 

鹿野先生

私も3年前まで現場で教えていたので、学習指導要領を作る時には、今おっしゃったようなことは常に頭にありますが、その上で、情報入試は導入した方がよいと考えています。ただ、その内容については、今までなかったものを作るので、具体的なイメージが湧かない部分は当然あろうかと思います。ですので、もし入試をするのであれば、こういうところも入れるということを示していくのが今後の方向性であると考えています。

 

また、それと同時に機材やソフト、ネットワーク環境などの問題もできるだけ解消するような方向で進めていきたいと思っています。

 

萩谷先生

私のところに来た質問では、まず「普通科と職業科の情報教育の関連性はどうなるのか」というものがありました。本日お話ししたのは、共通教科としての情報科ということについての議論ですので、全ての高校生が持つべき知識や能力と考えていただいてよいと思います。私からは大学のあらゆる学問分野で情報に関する知識や能力が必要であるという話をしましたが、逆に情報学の研究者は、情報学のみに閉じていないで、もっといろいろな分野で活躍することがますます期待されていると思います。

 

ですから、高等学校の職業科における情報教育でも、単に情報の技術だけを学ぶのではなくて、もっといろいろな分野で情報を活用するような対応とか考え方を学んでいくのがよいと思いました。

 

次に「思考力や判断力ということをコンピューター科学の分野の専門家のみで議論するのでなく、心理学や、哲学、経済学など人文系の専門家が加わった方がよいのではないか」というご意見がありました。確かに、今のところはコンピューター科学の専門家だけで議論を進めている状況ですので、このご意見は非常にもっともであると思います。

 

この事業のほかの分野の先生方と交流したり、今後例えば認知科学や教育の専門家の方にもぜひ加わっていただいたりして、議論を進めるのがよいのではないかと思います。

 

「新しい学習指導要領の解説などの中で、今日紹介されたような定義・問題に対応した具体的な指導法などは想定されているのでしょうか」という質問も来ています。これは、先ほどからもお話ししているように、今回紹介したものは、「このように指導しなさい」という指導法ではなく、評価方法の案として提案されているので、直接的に指導方法に対応するというわけではないと私は考えています。

 

情報科のこれまでの指導方法をいかに発展させて、思考力・判断力・表現力をより育成していけるようにするかというのは、決して本日のT・J・Eに限られることなく、今後より広い形で検討していくことが必要であると思います。

 

萩原先生(司会)

企業の方から見て、高校卒業後企業に就職する人に求められる素養という観点で、何かご意見はありますでしょうか。

 

片岡晃氏
片岡晃氏

片岡氏

IPAの情報処理技術者試験にITパスポート試験(※)というものがあります。高校を卒業してすぐに企業に入られる方には、この試験が有効だと思います。この試験には、今回のテーマの思考力や判断力という部分はそれほど含まれてはいませんが、ITのテクノロジーの部分だけではなくて、それらを実際に企業の中で使う際のビジネスとの関係性や、ビジネスの基礎知識、さらにITシステムを作っていくためのマネジメントの分野に関する問題も入っています。こういった試験を目指すことによって、今学んでいる技術が実際の現場にどのような関連性があるのか、この技術を使おうとすると何が必要かといった知識にはつながっていると思います。

 

https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/about/about.html

 

Q6大学教員

7月に大阪大学と東京大学で、今回の問題を実際に使った試行試験をするというお話がありましたが、その問題はあとで公表されるのでしょうか。また、二つの大学以外に、例えば高校などで受験することはできないのでしょうか。

 

鹿野先生

試験問題は後日、いずれはオープンすることになると思います。また、7月に実施する模擬試験と同じ問題を使って高校でもトライをしていただけるのであれば、まだはっきりとはしていませんが、1年後くらいには公開することになると思います。

 

萩原先生(司会)

CBT(Computer Based Testing)を受験する時、最初に「この試験問題は一切他言してはいけない」とサインさせられます。これはCBTの性質上、問題を再利用することがあるがためのルールです。現実的には、問題内容は知れ渡っていますが、ルールとしてはこうなっている、ということをご理解ください。

 

Q7高校教員

T・J・Eという形で具体的な問題と紐付けられたのは、非常にわかりやすかったと思います。ただ、ご提示いただいた問題は、結構現実から離れたような内容が多かったと感じました。実社会で何か起こっている問題に対してどのように思考し、判断し、表現するかという力を見る作り方のほうがよいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 

久野先生

おっしゃる通りで、単に教養の問題だけでなく社会と関係のあることがわかっているかを見ることを含めるために、問題文には社会問題に関する記述を含めました。ただその一方で、社会に関する問題は誰が見ても合意が得られるというのは難しいことが多いので、拡大していくのはなかなかたいへんだと思います。それでも、社会的な問題を出題すべきだということは、私も同意します。

 

Q7’高校教員

今回は、思考力・判断力・表現力を切り分けた形で出題されていましたが、実際の問題ではその三つが一体となった問題というのが多いと思います。その点はいかがでしょうか。

 

実際に何か問題があった時は、思考力・判断力・表現力を全て融合したもので解決していくというスキルが求められると思うのですが、今の分け方だと、思考力・判断力・表現力をそれぞれ個別に評価する問題に分かれていますよね。それをミックスするというか、一つの問題の中に三つの力が含まれているような作問のしかたというのはないのでしょうか。

 

久野先生

今回は、基準を明確化することが優先しているので、このような作りになりましたが、今おっしゃったようなことに応えていくためには、ある台本があって、その中の一つ一つの設問が、これは表現力、これは判断力…と作っていくことはできると思います。実際そのような問題を作ろうと努力していますが、具体的なところはまだ検討中です。

 

Q8高校教員

問題解決というのが、今の情報科の授業の中でもかなり取り上げられていると思います。何かを解決するためにどのような情報を得たらよいのか、あるいはその情報にどのようにアクセスするかといった、いわゆる解決に向けての設計の部分を評価するという場合、今回の観点は少し合わないように思いました。そこを上手に評価できるようなポイントが必要になるのかなと思います。

 

また、判断力のところで、『あらかじめ設けられた基準に基づいて判断する』というのがあったと思いますが、実際の場面では、その判断基準そのものを自分たちで設計して作らなければならないことがあると思います。その「基準を作る」という場面を評価するのは、あえて判断力からは外して、思考力の部分に入れたという理解でよろしいでしょうか。

 

久野先

直接示されていない何かを考えるというのは、Td(discovery:発見)に入っています。ここには単に知識の問題だけでなく社会と関係のある問題を出して、社会で重要なものは何なのかがわかっているかどうかも見るようにします。

 

ですから、基準に従って選ぶのがJですが、どのような基準がよいのか考えて作るというのはTdとする、という分類は可能です。ただ、そのような問題を実際にどう作るかというのはまだこれから詰めていくことになります。

 

Q8’高校教員

思考力・判断力・表現力は育成すべき資質・能力の三本柱の一つで、それを測りましょうということでしたが、例えばB.ブルームの教育目標分類のモデルでは、一番下のベースに記憶があり、それを理解して、それを応用、分析して、最後に評価や創造ができるということで、要するに技能・知識をきっちり記憶・理解しておかないと、それを活用した思考とか判断はできないということになっています。ということは、逆に教科情報で求められている思考力・判断力は、知識や技能を活用した結果として評価するという形になるのかと思っていましたが、先ほどの例題を見ると、判断力の部分だけを応用すれば解けるようなものに感じられました。それでは、確かに指導しにくいだろうと思います。私が想像していた判断力は、例えば何らかのデータを見せられて、それを自分で分析した結果何が言えるか、というようなものだと思っていたのですが、それは違うのでしょうか。

 

鹿野先生

思考力・判断力・表現力の間に順番や上下関係はないと思います。例えば問題解決の授業でこれらを使っていく際に、一つの学習活動で一つの能力を育てるというのではなく、常に複数の能力を育てるという形でされていると思いますので、それを分けて評価するということは確かにイメージと合わないでしょう。ですので、授業自体を変える必要はありません。ただ、そこで育つ能力としては、少し細かいところも考えてみるということはあってもいいのではないかと思います。

 

萩原先生(司会)

鹿野先生にお聞きしたいのですが、「情報格差をどう考えたらよいのか」という質問がありました。今ここで考える対象ではありませんが、この点について国が考えていることはあるのでしょうか。

 

鹿野先生

学習指導要領を実施していくにあたって様々な困難点が出た時には、当然それを解決しなければなりません。経済的格差が出るのであれば、それができるだけ問題とならないような対策が必要です。例えば、タブレットが買えない人や、自宅にネット環境がないという人に対しても、何らかの対応が必要であろうという議論はしております。

 

具体的には、指導要領の解説書を出していくのと同じようなタイミングで方向性を示し、学習指導要領解説書が出た後に施策として出していくということになります。

 

Q9高校教員

具体的にどの大学で入試をされるのでしょうか。大阪大学や東京大学でも情報入試をされるのか、あるいはセンターの後継テストに導入されるのか、そういったことはいかがでしょうか。

 

鹿野先生

模擬テスト等に関しては、CBTで行うことを考えていますので、阪大・東大ではコンピュータールームのようなところで行うことになるでしょう。これをセンター試験のように数十万人規模で行うことについては、まだ考えていません。

 

萩原先生(司会)

ありがとうございました。この事業については、8月9日・10日に電気通信大学で開催される全国高等学校情報教育研究会全国大会で、講演やパネル討論を行うことを計画しています。こちらもぜひご参加ください。

 

※情報処理学会第79回全国大会/文部科学省大学入学者選抜改革推進受託事業シンポジウムより