interview

「情報」入試は大学からのメッセージ

~明治大学情報コミュニケーション学部 2013年度「情報科」入試を実施して

明治大学情報コミュニケーション学部 

学部長 石川幹人先生



明治大学情報コミュニケーション学部は、現代社会で起こりつつある問題に目を向け、高度情報社会で活躍する主体性を持った人材を育成することを目指しています。この情報コミュニケーション学部が、2013年度の一般選抜入学試験から新たに「英語」「数学」「情報総合」の3教科による入試方式を導入しました。受験者数では日本有数の実績を持つ総合大学が、選択科目ではなく、募集定員を割り付けた独立方式として教科「情報」を、試験科目として導入したのです。


情報科が必修科目となって10年になりますが、一般入試で情報科を実施する大学は多くなく、最近はむしろ減少してきています。その中で、あえて今情報科を試験科目に導入したことへの思いや、高校教育に対するお考えなどを、明治大学情報コミュニケーション学部長の石川幹人先生にお伺いしました。

 

「情報総合」の問題はこちら

2013年度明治大学情報コミュニケーション学部情報総合問題.pdf
PDFファイル 414.2 KB
2014明治大学情報コミュニケーション学部情報総合.pdf
PDFファイル 896.7 KB
2015明治大学情報コミュニケーション学部情報総合.pdf
PDFファイル 499.8 KB

 

明治大学では、2012年に模擬問題を情報コミュニケーション学科のサイトに公開。出題の狙いなども提示しました。

模擬問題(1)
 ・模擬問題-1(PDF)
 ・模範解答と解説・出題の狙いと解答のポイント-1(PDF)
模擬問題(2)
 ・模擬問題-2(PDF)
 ・模範解答と解説・出題の狙いと解答のポイント-2【訂正版】(PDF)


「情報」必須の入試形式に募集定員20名を割り振った

 

明治大学情報コミュニケーション学部では、2013年度から、募集定員が400人から450人に増員され、それに伴って、入試方式や各方式の定員が変更されました。従来の「英語」「国語」[いずれも必須]、および「日本史、世界史、政治・経済、数学の中から1科目選択」を「A方式」として、募集定員は310人。新たに、「英語」「数学」「情報総合」が必須科目の3科目方式「B方式」(募集定員20人)を設置しました。


B方式の実施にあたっては、およそ1年前から広報を開始し、ホームページには「情報総合」の2回分の模擬問題を公開して、解答や出題の傾向、勉強の仕方などを解説しました。


「『情報』が必須のB方式に、募集定員(20名)を割り付けてあるというのは、かなりインパクトがあると思っています。私たちは、明治大を受験するような生徒たちの高校で、情報をきちんとやってほしいということを、入試を通じてメッセージとして出した、ということです。そして、今年明治大が、そして2016年からはSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)が、きちんと定員を付けた形で入試を行うということは、大学の方から情報教育の問題に向き合ってくれた、ということで、高校の先生方から歓迎されていることを感じるという声も教員から出ています」(石川先生)


結果的に、初年度ということもあって、出願者は81名。合格者は25人なので、欠席者を考慮すると実質倍率は約3倍と、例年5~6倍のA方式に比べるとかなり広き門になりましたが、合格者の入学率は非常に良かったということです。
   

 

その場で論理的に考えれば解ける問題を出題

 

試験問題は、学習指導要領の「共通教科情報科の目標」に記載されている4項目から7つの問題領域を抽出して、それらの範囲から出題されています(表1)。いちばん特徴的なのは、いわゆる「情報科学」のテクニカルな知識を前提とはしていない、ということです。現在の入試は、知識・記憶にあまりに偏重している、という問題意識から、予備知識は最小限にして、その場で論理的に考えれば解ける、という問題にしぼりました(表2)。

 

「その意味では、情報の学習の蓄積を前提としていなかった、とも言えます。とにかくその場で出会った新しいルールを理解し、それにのっとってやればよい、という問題にしました。高校の先生でも、情報科学系の人にはもの足りなかったかもしれませんが、情報コミュニケーション学会の高校の先生方には好評でした。


情報コミュニケーション学部に来てほしいのは、『情報と社会の関係に関心を持ち、情報を分析的・批判的に読み解くことができ、相手にわかるように説明できる学生』です。ですから、幅広い分野から、論理的に考えさせる問題を中心にしました。これは、情報コミュニケーション学部の考える『情報』のとらえ方とも合ったものです。


今回の問題は、学部に入った学生が学んでいる情報に取り組む姿勢を、高校生のレベルにおとして出題したと言えると思います。PISA型の問題に近いですね。情報コミュニケーション学部に来る学生には、こういう考え方をぜひ身につけて欲しいという意図を持って出題したと言えます。そういう意味では、私たち独自の『情報観』をメッセージとして出すことができたと思います」(石川先生)

 

[表1 高等学校学習指導要領との対応]

1.情報及び情報技術を活用するための知識及び技能を習得する
  (1)情報機器や情報ネットワークの仕組みに関する問題
  (2)言語を使った正確な情報伝達に関する問題
2.情報に関する科学的な見方や考え方を養う
  (3)データやグラフなどから知見を読み取る問題
  (4)論理的な思考に関する問題
3.社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解する
  (5)著作権法など、情報にまつわる規制に関する問題
  (6)情報社会における生活や産業の現状理解を問う問題
4.社会の情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる
  (7)データや主張を多角的な視点から批判的に読み解く問

[表2 2013年度入試の出題]

(1) 情報倫理やモラルに関する選択問題
(2) 論理的な言語表現を記述する問題
(3) 情報表現から規則を抽出して活用する問題
(4) 長文読解を含む総合問題


「情報総合」として、国語力も測る

 

「情報総合」としたのは、高校の「情報」には「情報A」「情報B」「情報C」(注 2012年度までの教育課程)の3科目の共通の基盤になるところで出題しているからです。さらに、B方式で受験する生徒は、国語を取らなくてよいことになります。そうすると、A方式だけだった時は国語が必須だったので、当然のことながら「国語の力を測らなくて大丈夫なのか」という意見も出ました。それを「情報総合」の中で、文章を読み取って考え、説明する力を問うのであれば、十分測ることができると考えました。

 


入試問題に戸惑いをみせる生徒、模擬問題で準備してきた生徒

 

明治大学の分析によると、A・B両方式で共通の数学の得点はほとんど同じでした。B方式を導入することで理系の生徒を多く取ろうとしているとみる向きもありますが、その意図はまったくなく、また、理系の生徒が増えたという感じもないと言います。

 

「情報総合」の試験の出来は、予想よりよく、説明問題もよくできていました。古文が入ってくる国語はあまり好きでなくても、文章を読んで理解し、説明することはできる生徒が受験したと考えています。そして、HPには「特別な受験対策は要りません」と書いてありますが、ラクそうだから受ける、というより、「情報コミュニケーション学部に来たい」という学生が、きちんと模擬問題を解いて準備してきたという印象があると言います。

 

「ペーパーテストですから実践的な力を見ることはできません。そこで、『情報』で情報活用の実践などを学習していれば自然と身につくであろう基本用語・概念を『解けるべき問題』として出題、加えて、論理的思考・批判的思考を必要とする『解けるのが望ましい問題』を出題しました。個人的な感想ですが、合否の分かれ目は、『解けるべき問題』をとりこぼしなくしっかり正答できたか、じっくり考えて『解けるのが望ましい問題』のいくつかに着実に正答できたか、という点にあったように思います。

 

従来の、知っている知識を書き出せばいいような出題ではないので、生徒には戸惑いもあったと思います。意外にできていないのが、『おおよその数を求めなさい』というタイプの問題です。ルールにあてはめて正確な数字をきっちり出すような問題のほうが得意なようでした」(石川先生)

 


論理的思考、批判的思考、説明する力が必要

 

それでは、高校の情報教育に求めるのはどのようなことなのでしょうか。

 

「私たちが、高校の『情報』で学んできてほしいのは、情報を使った論理的思考、批判的思考、そして社会との関係や説明能力です。

 

どんな教科でも、論理的思考や批判的思考で問題を解決する経験ができると言われていますが、実際はできていません。情報処理学会でも言っているのですが、他の教科の中でも問題解決の場面が増えるべきであって、本当にそうなれば、『情報』という科目を独立させる必要はなくなるでしょう。しかし、今は『情報』だけが、科目の枠を越えて、いろいろな課題を解決する経験ができるのです。それが、情報の存在意義であると思われます。

 

他の科目は、どうしても体系的に知識を与えることを重視していて、それは必要なことだと思いますが、大事なのは単発の知識ではなく、それらを組み合わせて活かしていくことだと思います。そうでなければ、単に知識だけを教えても、十分ではないでしょう。

 

また、入試にはアルゴリズムなどは出題されていませんが、これを知識として教えられてきたかどうかよりも、その前提となる、分析的な能力があるかどうかが大事だと思います。また、手順を考えることができるかどうかも重要です。学生の中にも、筋道立てて説明できない学生が結構います。これは、プログラムを組めるかという以前に、順序立てて考えたり、順序立てて説明したりすることを学ぶ機会が少なかったのだろうと思います。

 

さらに、技術に偏らず、社会との関係を学んでほしいですね。高校の『情報』は、コンピュータを強調しすぎているのではないかと思います。テクノロジーは確かに大事ですが、社会とのつながりの中でデータの意味を考えるといったことを重視してほしいと思います」(石川先生)

 

関連記事

 ◆明治大学情報コミュニケーション学部2013年度情報入試の速報
 山崎 浩二准教授 明治大学情報コミュニケーション学部

<情報入試フォーラム2013における講演より>

 

◆日本経済新聞
「明治大が教科「情報」を入試に導入、多様な人材集めて学びを推進」(2012.7.6)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0502P_V00C12A7000000/
 
◆明治大学HP
情報コミュニケーション学部で一般選抜入試に「B方式」を新たに導入。英語、情報総合、数学の試験科目構成で、各教科150点満点。
http://www.meiji.ac.jp/infocom/examination/generalb.html