第62回ICTE情報教育セミナーin武蔵大学

講演「高校生とスマートフォン ~情報教育ができること~」

千葉大学教育学部教授 藤川大祐先生


藤川大祐先生
藤川大祐先生

スマートフォン以前のフィルタリングの取り組み

 

携帯電話でのインターネットの発端は、1999年NTTドコモのiモードサービスの開始です。2004年には、携帯電話会社は早々と有害サイトにアクセスできないようにするフィルタリングサービスの無料提供を始めましたが、普及は進みませんでした。フィルタリングが何もかもブロックしてしまい、使いにくいからです。そのため、2008年に「EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)」いう第三者機関が設立され、ここが「青少年に配慮している」と認めたサイトは、携帯電話会社がフィルタリング対象から外すという措置を始めました。結果的にゲーム会社なども非常に頑張ってトラブル抑止に努め、フィルタリング普及率も上がったので、大きく言えばプラスに働いたと思います。2008年には、「青少年インターネット環境整備法」ができ(2009年施行)、法的な整備も進みました。

 

特筆すべきは、携帯電話に関しては保護者が要らないと言わない限りは、18歳未満の子どもが使うものにはフィルタリングをつけなければいけない、という点です。この法律ができた頃、2007年、高校生の携帯電話の所持率は約96%でした。携帯電話の所持率の増加に伴って、児童買春、ネットいじめ、長時間利用、高額課金請求や架空請求などが問題になっていました。

 

青少年インターネット環境整備法とともに、通信業者はフィルタリングの推進、投稿監視等で安全なネット環境の整備を行い、学校では情報モラル教育の充実をはかり、総務省は義務教育期間中のインターネット・リテラシー指標作りの研究を行うなどの対策を講じました。このような取り組みの成果で、青少年がトラブルに巻き込まれる被害も減る傾向にありました。

 

スマートフォンやネットに接続できる端末の増加から新たな問題が

ところが、2010年代に入ってスマートフォンが登場すると、新たな問題が生じてきました。

 

スマホの普及は特にここ2年で爆発的に進み、2014年3月に内閣府が発表した2013年度の調査によると、高校生のスマートフォンの所有率は約98%。小中学生の所有率もここ数年増えています。

 

青少年へのスマートフォンの普及/内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報)」より
青少年へのスマートフォンの普及/内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報)」より

ネットに接続できる端末に関しては、ゲーム機を持っている小中学生は増加傾向、携帯音楽プレーヤーについては、中学・高校生の半数以上は持っているという状況になりつつあります。また、情報教育でICTの利活用が進み、一人一台タブレットを持たせる地域も増えています。子ども向けの通信教育でもタブレットを使われ、もっと幼い子どもが扱えるおもちゃのタブレットが、玩具店で1 万数千円程度で売られていたりします。

 

ここで問題になるのが、フィルタリングというのは携帯電話事業者だけに義務が課されていることです。

 

ゲーム機も音楽プレーヤーもインターネット端末としてよく使われていますが、フィルタリングの義務はありません。タブレットは、携帯電話会社と契約している回線を使うものであっても、最初から通話機能がある携帯電話というたてつけになっていなければ、これもフィルタリングの義務はないのです。

 

特に問題なのは、親が知らない間に、ネットが使える端末を子どもが持つケースです。例えば、子ども達がおじいちゃん、おばあちゃんにゲーム機を買ってもらって、親が知らないうちにネットを使ってしまう。音楽プレーヤーなどについても同様のことがあります。実際に、ゲーム機からSNSに投稿してトラブルになったというケースが結構あるのです。

 

スマホではフィルタリングがややこしいという問題があります。これは後述しますが、無線LANを使う場合や、アプリの提供元によってフィルタリングのかかり方が違うので、携帯電話のように一律に対処することができません。また、スマホではアプリを使うことが多くなっていますが、アプリに関しては、5年前にはこれほど普及すると想定されていなかったので、法的な規定がほぼありません。とはいえ、青少年インターネット環境整備法を中心に様々な対策が進められてきたということは重要なことですし、今後もこの方向は維持していくべきであると思います。

 

長時間利用が生み出す「依存」という新しい問題

 

さらに問題なのは、とにかくスマホになると、利用時間が長くなる、ということです。ゲームで遊ぼうと思ったら、無料アプリが実質無限にあり、これまで以上にゲームにはまりこみ易くなっています。

 

動画視聴も同様です。子ども達の生活時間調査では、テレビの視聴時間は激減していて、その分ネット利用時間が増えており、特に動画視聴の時間が増えているのではないかということが考えられます。平均利用時間のデータからも、スマホの動画視聴は携帯電話の3倍近くなっているのがわかります。

 

内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報)」より
内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報)」より

長時間使用が嵩じて、ネット依存の問題も出てきました。それらについて、いろいろな調査を見ると傾向として高校間格差が大きいということがわかりつつあります。また、個人差も大きく、勉強しない、外出もしない、部活も他の娯楽もやらないような生徒は暇ですから、その空いている時間はずっとネットをいじっているとしか考えられないような結果も一部で出ています。スマホがあれば、暇つぶしはできます。でも若い時期に果たしてそれでいいのか。いずれにしても高校生のネット利用では、「時間」というものをどう捉えるかということが、大きな課題になりつつあると思います。

 

誰からもチェックされない場でのコミュニケーションが引き起こす問題

 

LINEは2年くらい前に登場して、スマホを使う若者のほとんどが使っています。無料通話アプリと言われていますが、メッセージを送り合うメールの代替機能が主に使われています。

 

LINEの特徴はグループが作りやすいことです。メーリングリストを作るよりも飛躍的に簡単にグループが作れるので、子ども達はどんどん違うグループを作ります。これが仲間外れにつながる。5人でグループを作っていたのを、その中の1人だけを排除して4人で作るという「LINEはずし」をするわけです。以前はLINEはずしと言えば、グループから誰かが退会させられることだったのですが、それでは退会させたのが誰かが判ってしまうので、もとのグループはそのままにして、別のグループを作ってしまうのです。その結果、高校生の中にはほとんど使わないものも含めて何十ものグループに入っている人もいます。

 

また、LINEはタイムラインに日記のように書いて、友達限定で見てもらうこともできます。しかし閉じたサービスなので、第三者が見ることはできません。ここが重要です。青少年が対象のサービスサイトは、たとえゲームサイトであっても、クローズドな掲示板やグループ、フォーラムも、問題のある投稿は全て管理者にチェックされますが、LINEは誰もチェックしていないので、何か問題があってもシステム的には何もできないのです。

 

こんなものが問題になるのか、というものにLINEの既読機能があります。メッセージを相手が読むと「既読」という表示が付くので、大人から見ると、「読んでくれた=伝わった」となりますが、子どもの場合は、既読なのに返事がないということがトラブルの原因になったりします。子ども達にとっては、「既読無視」「既読スルー」と思われないようにすぐに返信しようと気を遣うことがストレスになるのです。

 

さらにLINEやFacebook、twitterなどのアプリはEMA非認定なので、フィルタリングを付けると使えなくなります。そのため、LINEを使いたくてフィルタリングを外す人が多くなっており、フィルタリングの普及率の低下につながっています。これが大きな問題になります。

 

いじめについては、昨年2013年6月「いじめ防止対策推進法」という法律が成立しました。これは、各学校でいじめ防止対策の基本方針を定め、いじめ防止の組織を設け、いじめ防止対策に取り組むことを義務付けています。ネットいじめについても対策を取ることが決まっています。しかし、スマホをめぐる状況の変化が速い中で、小中学校の現場でスマホの最新の状況に合った対策をするのは難しいと思います。

 

また、LINE等での仲間外れについては、どういう法律を作っても犯罪とは言えません。これらには罰則で対応するのではなく、予防的な教育と、事態が起きた時に相談できるようにすることで対応するしかありません。そういった意味でも、全国の学校でこのような問題に関する教材を用意することは大きな課題であると思います。

 

ネットが拡大させる福祉犯罪

 

ネットを利用した出会いにより、性犯罪等に巻き込まれる事件(福祉犯=児童の福祉を害する犯罪)が後を絶ちません。代表的なものが出会い系サイトですが、18歳未満の使用を禁止する「出会い系サイト規制法」というかなり厳しい法律ができ、被害の件数は一時期に比べてかなり減りました。

 

ところが、逆に出会い系以外のサイトの被害は、2012年度の下半期くらいから増えてきて、2013年は激増して過去最高になってしまいます。1300人の被害者のうち、352人がLINE等のID交換掲示板によるものとなっています。ID交換掲示板は、いわば脱法サイトと言うもので、決して「異性」「彼氏募集」とは言わず、「友達を作りましょう」としながら、中を見ると、児童買春に関わる発言があったりするわけです。

 

LINE側は、この問題については対応を進めていて、利用者の年齢情報を本人の許諾の上で携帯電話会社のサイトから取り、18歳未満の場合にはIDの交換や検索をできなくしています。また、LINEを商標登録し、掲示板についても怪しいものを排除するという措置に出ています。

 

ただ、最近は警察統計等によると、確信犯的に自ら進んで会いに行く、いわば自ら児童買春に行くというケースも多い。被害児童の1割から2割くらいが家出中なのです。だから、ネットリテラシーの問題というより、非行や児童福祉の問題であり、ネット対策だけでこの問題を議論できないと思います。

 

個人情報・プライバシー情報の漏えいの危険性

 

スマートフォン特有の問題として、個人情報やプライバシー情報が漏れやすいという問題があります。例えば、アプリによっては、写真を撮るとデフォルトで位置情報を載せて写真を保存するものがあります。そのため、自宅で撮った写真を公開すると自宅の住所まで公開されることになります。また、スマホアプリの位置情報を見て、実際に会いに行くこともできます。こういうものを通して、どんどん新しい出会いのルートが増えているので、18歳未満の子どもについては、犯罪被害防止法努力義務を企業に課し、悪質なものには罰則を与えるという対策も犯罪対策の1つのポイントだと思います。

 

また、アプリをダウンロードする時に、端末の中にある電話帳や位置情報を使ってもよいかと聞かれ、OKすると、端末内の情報が吸い上げられる場合があります。「行動ターゲティング広告」と言って、アプリで個人情報を取ってそれに対応した広告を出す手法も増えています。無料アプリを使うときには、なぜ無料で提供できるのか、子ども達にもメディアリテラシーとしてぜひ考えてほしいと思います。そして、怪しいアプリには入らないという判断ができることが大事だと思います。

 

炎上問題の2つの側面~変なものを発信すること・発信した人に対する過剰な攻撃

 

高校生がやってしまいそうなのが炎上問題、ネットの不注意な発信です。炎上事件の問題を整理してみると、一つは、変なものを発信してしまうという行為そのものの問題です。

 

Twitterで不適切な写真をどんどん流出させる行為が問題になったことがありましたが、一部の若者は何でも拡散させていい、というふうになってしまっています。これは、モラルの問題として何とかしなければならないと思います。最近よく言われる「リベンジポルノ」についても、これを取り締まるためには、最初に出す人とともに、それを拡げる人についても考えなければならないと思います。

 

もう一つが、変なものや悪い人が許せないということで、ネット上で攻撃が行われ、それに皆が便乗することです。ネットでの発信に対してではなく、実社会での行為が問題となってネットで攻撃されるというケースも少なくありません。いじめ事件の加害者のプライバシーがネットで公表されるというのがこれです。過剰な制裁は絶対にやってはいけない、ということを改めて確認しておかなければなりません。

 

ある意味、ネットがなかった時代よりも、違法行為に対して不寛容になっていて、言動にもふだんから注意しなければいけない、という空気になっています。軽はずみに何か変なことをしたり、差別的なことを言ったりしたことがネット上に残って後々まで問題になることもあるわけで、子どもがこのことをきちんと認識できることが大事だと思います。

 

ソーシャルゲームの課金の仕組みを知ることも必要

 

ネットでは、基本的には無料で、もっと楽しみたければお金をとります、というサービスが結構あります。「フリーミアム=フリー+プレミアム」と言われるもので、この仕組みをわかっていると、無料で止めるか、適度にお金を払って使うかという判断がつきやすいはずです。今ソーシャルゲーム各社は、子どもに対して月々の課金の上限金額を定めています。従来の携帯電話時代からのGreeやMobageが携帯電話会社の情報にひも付けて年齢確認をし、プラットフォームとして課金を管理して、上限金額を全体で1万円となどとしているので、使いすぎの防止になっています。

 

しかし、同じように人気の「パズドラ(パズル&ドラゴンズ)」は、ネイティブアプリ型といって、アプリをダウンロードして遊ぶものです。このタイプは、基本的にアプリごとにお金の管理をしているので、いくつものアプリで遊んでいると、結果的にとんでもない金額になってしまいます。さらにアプリは年齢確認が自己申告なので、自由に使いたい人はみんな嘘をついてしまうのです。今後、ネイティブアプリ型で人気ゲームが増えていくと思われますが、ゲーム会社がどのようにお金を儲けようとしているのか、そのメカニズムを子どもにもよく理解させることが大切ですし、これからの教育でやらなければいけないところです。

 

これからのメディアリテラシーをどう教えるか

 

ここまでは、スマホ利用における危険性やトラブルの防止法についてお話ししましたが、逆に社会の変化に合わせて積極的に使うということも必要だと思います。

 

特に震災以降、主体的に情報を扱うことが求められていますし、社会問題の解決という点でも、ネットを活かすことによって様々なことができます。中学生、高校生でもこういうことをやろうとしている人は結構います。そういうプラスの面、能動的な面も合わせて見ていき、うまくこのネット社会を活かしていくという姿勢は、もちろん持っていなければいけないと思います。

 

また、スマホに対応した教材が必要です。下記に紹介したのは私が関わっているものですが、DVD教材を最近作りました。機会があったら見てください。

 

※「ちょっと待って!ケータイ&スマホ」は、文部科学省のHPよりダウンロードできます。

http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/taisaku/1345365.htm

 

著作権についても、著作権法が変わったのできちんと教育しなければなりません。2012年10月より違法ダウンロードが刑罰化されました。一方で、音楽配信はコピーフリーとなり、スマートフォンに一度ダウンロードすれば、PCや音楽プレーヤーに転送し、再生できるようになり、使いやすくなっています。手軽であるからこそ、何が違法で何が合法なのか、きちんと教えておくことが必要です。

 

「ムーアの法則」によれば、同じ価格の電子機器の性能は、1年半後に2倍になり、10年で100倍、20年で1万倍になると言います。今の小学生が大人になる頃は、今と全く違う状況になります。当面その速度はどんどん速くなっていきますから、落ち着いたらちゃんと教育しようと思っていると全然間に合わないわけで、走りながら微妙に対応を変えていくしかないというのが現状かと思います。

 

このように変化の激しい社会の中で、学ぶ・教えるというのは、一体、どうなるのか。スマホがあれば退屈しないわけですが、退屈しない時代に思春期をどう過ごすのか。羽目を外しすぎると一生禍根を残すようなネット社会で、どうやって若い時だからこそゆるされるような羽目の外し方をするのか――。高校生のネット利用を考える上では、この辺も議論していかなければいけないかなと思います。このような視点も持っていただきつつ、最近の細かい問題を考えていただけるとありがたいと思います。

 

※第62回ICTE情報教育セミナー(2014年5月18日 武蔵大学)講演