ネット依存の予防は「知ることこそ護身術」

<ネット依存相談の窓口から>

第7回 チェックリストで依存の度合いを知る


これまでに挙げた事例からも明らかなように、ネット依存の形はケースによってさまざまです。対処法の体系化も容易ではないですし、ゆえに対処も遅れがちになります。個別のケースへの対処はもちろん必要ですが、依存者の増加し続ける現状を改善するには、つまり、将来のネット依存者を少しでも減らすには、やはり先手を打って予防を重視すべきでしょう。中でも特に教育の現場における依存予防への取り組みは、状況改善への重要な鍵になると思います。

 

 

依存度合いを知るにはチェックリストが有効


ただその前に、現状の把握も大切です。一人ひとりの子どもがどの程度ネットに依存しているか、その度合いを知らなければ、適切な指導はできませんから。また、あとで説明するように予防には子どもの側からの取り組みも必要なのですが、そのためには子ども達自身も、自分がどの程度ネットに依存しているか自覚する必要があります。

 

そこで有効なのが次のチェックリストです。いくつ自分に当てはまるか、子ども達にチェックさせてみてください。なお、以下のケータイにはスマートフォンを含みます。

 

  □ ケータイを忘れると遅刻してでも取りに戻る
  □ 食事しながら、風呂につかりながら、勉強をしながらなど、ながらケータイをしている
  □ 授業中もケータイが気になる
  □ ケータイが鳴っていなくても鳴っていると錯覚する
  □ ケータイのほかに楽しいことがない
  □ リアル友達よりも、ネット友達のほうが多い
  □ ファミレスなどで友達と一緒にいてもずっとケータイをいじっている
  □ 一日のほとんどをケータイをいじって過ごす
  □ ケータイがないと不安になる
  □ 遅刻や人間関係など、ケータイをいじっていて失敗したことがある

 

これらはどれをとってもネット依存の人に典型的な行動や状態です。ですから、チェックがいくつまでならセーフ、いくつ以上ならアウト、というのではなくて、ひとつでも当てはまる場合には要注意。それで即ネット依存と決まるわけではありませんが、依存しつつあるかもしれないという可能性は否定できませんし、そのことは各自にしっかりと認識させて、ネットの使い方に問題はないか省みる機会を持たせるべきです。当然、該当する項目が多いほど依存度は高くなります。

 

こうやって子ども達にネット依存の問題を意識させ、自分の依存の度合いを気づかせると、多少なりとも状況はよくなるものですので、一度試してみることをおすすめします。そのときに併せて、一日何時間ネットを使っているか書き出させてみるのもいいですね。これもネット依存の度合いを客観的に認識させるのに役立ちます。

 


依存する人には傾向がある


さて、予防を考える上では、ネットに依存してしまう子と依存しない子の違いが大きなヒントとなるはずです。


私はこれまでネット依存に関してさまざまな相談を受け、取材を重ねてきました。その経験をもとにこの両者を比べてみると、ネットに依存する子ども達にはだいたい次のような傾向を見て取ることができます。

 

  ・比較的早くからネットを使い始めている
  ・ネットをストレスの発散に使っている
  ・チャットやゲームがとにかく楽しい
  ・ネットを居場所にしてしまっている
  ・受験、宿題や課題、友人関係といった現実からの逃避にネットを使っている
  ・暇があると、ほかにやることもないのでネットをする


ひと言でまとめると、問題は「ネットとの接し方」にあります。概して上のような形でネットと接していると、ネットにつながることが、自分で管理できる範囲を超えて、日常生活の中にまで入り込んでしまう危険が高くなるのです。


加えて現在は、連絡手段としてLINEやメールなどが不可欠だったり、友人間の同調圧力があったりと、ネットを手放すことがとても難しいため、その危険はますます高まるばかり。デバイスの面でも、スマートフォンという、PCよりはるかに身近で手軽なぶん、日常生活に入り込みやすい機器がどんどん普及しています。そんな状況のもとで、ネットが生活パターンにがっちりと組み込まれてしまうような間違った接し方を続けていれば、早晩、対処も困難なネット依存が出来上がってしまうわけです。

 

ただ、深刻かつ長期的な依存に陥っているケースには、上記のような「ネットとの接し方」の問題以外に、以下のような本人が抱える問題も見られます。


・自分が孤独だと思う、寂しいと思う傾向がより強い
・自分に自信がない(性格・外見・行動など)
・社会や人生において、将来において悲観的、もしくはなにも感じていない(考えていない)
・本人に依存の気質がある(発達障害)
・親子関係があまりよくない


※後者の場合は、本来本人が持っている要素なのか、ネット依存が原因であるものかの判断が難しいものでもあります。また、後者の場合、ネットの利用を改善することが難しかったり、改善するだけでネット依存の問題が解決するとは限りませんので、独自の判断をせずに専門の医療機関などに相談してください。


以上を踏まえて、私たちがネット依存を予防するためにできる事について要点を言えば、「ネットとの誤った接し方を改める」「また誤った接し方が生活パターンになるのを防ぐ」ということになるでしょう。そしてそれには、第2回でも触れましたが、ネットやスマートフォンの利用に関するルールを作ることがなによりの手段でしょう。

 

 

ルールは押し付けるのではなく、子ども達自身に考えさせ、決めさせる

 

ネット利用のルールを作るときには大きく次の2点がポイントになります。


まず1つめは「ルールを押し付けるのではなく、子ども達自身に考えさせ、決めさせる」こと。

 

大人の作ったルールを押し付けたところで、それがきちんと機能するとは限りません。むしろ一方的な押し付けに反感を覚える子どもも少なくないものです。どんなに優れたルールであっても守られないのでは意味がない。そんな残念な結果に終わらないためにも、ルールの内容は、子ども達に考えさせて、決めさせるのです。チェックリストを使ってネット依存が自分達の問題だと認識してからならば、きっとまじめに取り組むはずです。

 

もちろん、ちゃんとしたルールを作るためには、インターネットやネット依存に関する知識が必要になります。ですから子ども達を指導する側は、ルール作りに話を進める前の段階で、まずそれらの知識を与えてあげましょう。たとえば、インターネットにはネット依存という危険があること、ネット依存はPCだけでなくガラケー(フィーチャーフォン)やスマートフォンの問題でもあること、いったん依存になると回復するのが難しいこと、みんなが日常的に使っているLINEやtwitterなどのSNSに依存する人が増えていること、暇さえあればスマートフォンをいじるといったようなネットの誤った使い方が依存につながること、など。こうした知識を与えた上で、適切に舵取りをすれば、小学生でもルールは作れます。

 

また知識を教えるだけでなく、依存やネットの使い方について具体的に考えたり、ディベートしたりプレゼンしたりする機会を、授業にふんだんに盛り込むことも忘れないでください。ネット依存は自分たちにも十分関わりのある問題だという意識を持たせることが予防には大事なのです。

 

 

事例を挙げて、ネット依存の恐ろしさを知らせる

 

そしてその授業の際には、2つめのポイント、「子ども達は依存がどんなものがよくわかっていないのでサンプルを出す」ことです。


サンプルというのは、これまでに紹介してきたような依存の事例のこと。ネットにはまって成績が下がったケース、志望大学にすべて落ちたり志望校のランクを2つも3つも落とさざるをえなくなったりしたケース、止めようと思うのに止められず、苦しくなるほどネットにはまり込むケース…。とりわけ同世代に起きた事例を示すことで、子ども達はネット依存をより切実な問題として捉えるようになります。


あるいは子を持つ母親の事例――ネット依存が育児放棄につながり、結果的に子どもを死なせてしまったケースなど――を出しても、子ども達にはネット依存の恐ろしさが身に染みるようです。


簡潔にまとめると、「知識を得てネット依存の危険を知り、他人事ではないと自覚した子ども達に、自主的にルールの中身を決めさせる」。これがうまくいくルール作りのコツです。

 


子どものネット利用をチェックできるのは学校しかない


理想を言えば、ネットに関する教育は、時間の使い方のしつけなどと同時に、携帯やスマートフォンを与える前の、できるだけ幼いうちに各家庭で行うのがいいのだと思います。


しかし現実問題として、それは無理な話と言わざるを得ません。なぜなら、ネットへの関心や知識には、家庭ごとに大きなばらつきがあるためです。中には、ネット依存のことは知っているけれど指導のしかたがわからない、という親御さんもいます。さらに最近では、いわゆるママ友同士がまるで中高生のようにLINEを使っていたり、親のほうがtwitterにはまっていたり、アプリを提供する企業の売り文句をそのまま鵜呑みにしていたりと、保護者が自分の子どもの動向を正しくチェックできないという状況も生まれています。

 

家庭での教育にすべてを任せるわけにはいかない状況の中、最終的に、子どものネット利用をチェックでき、指導できるのは、学校しかないという結論にたどり着きます。冒頭で「教育の現場における依存予防への取り組みは、状況改善への重要な鍵」と述べたのは、こういうわけです。ネットの問題に詳しい教師の数がまだまだ不足しているなどいろいろと問題はありますが、行政的なサポートも含め、日本中の学校で依存予防への取り組み体制が整うことを願うばかりです。

 

もちろん、学校任せにするのではなく、保護者もネット依存についての知識を持つべきですし、家庭での子どものネットの利用状況は把握すべきものです。一方で、学校側も、子ども達のネット依存の状況について、積極的に保護者へ情報提供するなど、各家庭と連携して問題に当たるよう心がけていただきたいと思います。最初の働きかけは学校側からになるのでしょうが、この両者の間で情報の交換や連携がうまく行ってこそ、子ども達のネット依存問題は改善できるのだと考えます。

 


おわりに


この連載では、いま最も問題となっているという理由から、主にLINEに焦点を当てて話を進めてきました。ですが、このLINE人気も別のアプリに取って代わられる日がいつか来るのかもしれません。そのときにはその新アプリへの依存が新たな社会問題となるのでしょう。ただ、アプリは変わっても、LINEのようなコミュニケーションのためのツールに依存する形は、今後も変わらないと思います。すなわち前に指摘した「人依存」です。


つまりネット依存は、スマートフォンやアプリが問題であるかのような一般の印象よりも、はるかに根の深い「心の問題」である。このことを最後に確認して、この連載を締めくくりたいと思います。

◇プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー