ジョーシン2013

講演「模擬試験の実施および解説」

植原啓介先生 慶應義塾大学 環境情報学部准教授


植原啓介先生
植原啓介先生

今年5月に実施した「第1回大学情報入試全国模擬試験」の実施概要について解説します。

 

はじめに経緯から申し上げると、2013年度から新学習指導要領が施行され、高校の教科「情報」は、従来の「情報A」「情報B」「情報C」から「社会と情報」「情報の科学」の2種類になりました。また一方で数学からプログラミングがなくなるなど、教科「情報」以外の教科でも情報の分野にかかわる変化もありました。

 

このような変化に鑑み、改めて大学入試における教科「情報」のあり方を考えようという動きが、2012年3月3日、早稲田大学で開催された『情報入試フォーラム』を契機として始まりました。これを受け、有志の大学教員が集まり情報入試研究会を設立。またそれに後押しされる形で、情報処理学会でも情報入試ワーキンググループが設立されました。これらのメンバーが検討を重ね、大学入試における教科「情報」の出題形態や難易度を探るため、今回の模試の実施に至ったわけです。

 

第1回情報入試模試は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスをはじめ、全国5ヵ所の本試験会場および団体試験会場で実施されました。実施日は2013年5月18日(土曜)14時~15時30分の90分。受験料は無料でした。

 

試験範囲は、高校教科「情報」における新学習指導要領の「情報の科学」「社会と情報」です。「情報の科学」「社会と情報」の共通分野と、「情報の科学」と「社会と情報」の3カテゴリーから出題されました。具体的に問題は、第1問(共通分野)第2問、第3問(情報の科学分野)、第4問、第5問(社会と情報分野)と、5つの問題で構成されています。

すべて必答です。

 

問題構成

問題 選択方法 分野
第1問 必答 共通
第2問 必答 情報の科学
第3問 必答 情報の科学
第4問 必答 社会と情報
第5問 必答 社会と情報
第1回大学情報入試全国模擬試験#002.pdf
PDFファイル 1.2 MB

第1問の解説~共通問題

第1問は「情報の科学」「社会と情報」の共通問題で、小問6問から成ります。

 

問1は、2進法と16進法における基本的な計算や相互変換ができるかを問う問題です。大学で情報関係の授業をしていくうえで最低限知っておいてほしいという知識問題で、高校のうちにきちんと学んでほしいというメッセージがこもっています。

問2は、画像をデータとして扱う場合の、データ量に関する問題です。画像のパラメータとデータ量の関係の理解度を問うています。データを扱う場合、データ量を見積もれることは生活のなかでも役立つスキルであると考え、これを問うことにしました。

解答群省略
解答群省略

問3は、パターンの数を計数し、それを表現するのに必要なビット数を答える問題です。問3は(1)(2)(3)に分かれ、(1)(2)はそれぞれ単純に3種類、5種類ある経路数を何ビットで表現できるかという問題。(3)は、(1)の解答2ビットと(2)解答3ビットの単純な足し算でなく、4ビットで表現できるということに気づけるかを問うています。

問4は、色(配色)のついての問題です。RBG(レッド、ブルー、グリーン)の数字からおおよその色をイメージしながらコンテンツを完成できるかを問うています。もちろん光の三原色をあらわすRGBの仕組みについての理解が問われます。 

解答群省略
解答群省略

問5は、情報科社会において身につけておいてほしい情報リテラシー(情報を扱う力)、特にセキュリティの問題です。表面的な丸暗記でなく、なぜそのような行動をとらなければならないのかといった、理由を理解しているかを問うことによって、応用力のある行動を取ることができることを期待したものです。 

問6は、デジタルとアナログの違いをストレートに問うた問題です。今の学生は、何でもデジタルが良いと思う傾向があるようですが、そこにどんな落とし穴があるのか理解しておく必要があると考えたのです。

第2問~情報の科学<プログラミング>

第2問は「情報の科学」から、プログラミングの問題です。今回はアルゴリズムの構成能力、特に繰り返しや条件分岐などをきちんと使う能力があるかどうかを見るために、文の穴埋めではなく、短冊の並べ替え方式で出題しました。穴埋め方式の場合、繰り返しや条件分岐はあらかじめ設定されている必要があり、本当の意味でアルゴリズム構成能力をみることができないと考えたからです。 


第3問~情報の科学<データベース設計>

第3問は、データベース設計に関する問題です。プログラミングを行ううえでアルゴリズムと同等に大切なスキルが、データ構造を設計できることです。そこで簡単な事例からデータベースを設計できることを問いました。最近の学生はタブレットとかスマホを使っているので、そもそもファイルなどのデータ集合の概念が見えにくくなっています。しかし、データを扱いやすくコンピュータに格納することは、コンピュータシステムを設計するうえで不可欠です。そのため、学生がきちんとデータとアルゴリズムを切り分けられる能力を、高校のうちに身につけてほしいと考えたのです。


第4問 ~社会と情報<グラフ表現>

第4問は「社会と情報」から、グラフ表現に関する問題です。データをわかりやすい形で表現することはコンピュータの利活用の方法として代表的なものです。しかし一方、さまざまなグラフを簡単に描けるようになったため、安易なグラフを作成してしまうことが増えています。たとえば都道府県の面積を比較するには棒グラフを使うべきなのに、平気で折れ線グラフで描いてしまう学生がいます。あるいは、意図的にデフォルメされたグラフを無批判に受け入れてしまうと、意図を取り違えることがあります。そういうことを問うている問題です。


第5問 ~社会と情報<著作権>

第5問は著作権に関する問題です。近年、著作権のあり方が問い直されています。コンピュータの普及によって、著作物がデジタルデータとなり、複製や改変が容易になりました。また、インターネットの普及によってそれらの著作物を広く公開したり、あるいは他人が公開している著作物を簡単に入手することが可能になりました。このような状況の中で、新たな著作権表示の動きが活発化しています。今回、われわれはそうした例としてABCライセンスを取り上げ、この動きにいち早く対応できるような知識と考え方を問う出題をしました。ライセンスには「著作物を改変しない」とか「営利目的で使用できない」など種類があり、それらを読み取り理解することで、自分の著作活動をどう進めていくかと問うた問題です。

※第5問は一部掲載
※第5問は一部掲載

得点分布と次回模試の実施予定

第1回情報入試の模試の受験者数は80人でした。高校生の受験者は47人。そのうち45人が団体受験でした。残る受験者の大半は高校教師、それ以外に大学生やプログラミング関係の仕事をする社会人にも参加いただきました。

 

受験者全体の最高点は99点、最低点は16点、平均点は53.0点。高校生の最高点は90点、最低点は16点、平均点34.1点という結果でした。

 

点数の分布を見ると、全体では低い点と高い点に2つの山があり、高校生の点数分布は21~30点にピークがありました。全体では高校の先生が多く受験されているので、まあ、得点分布はこんな感じかなという印象です。 

問題の作成は、われわれ側にまだノウハウが蓄積されていないこともあって、かなり困難でしたが、単なる知識問題だけにならないように、また理系の問題に偏り過ぎないように注意しました。そういう意味では今回の模試は、大学で情報入試を実施する際に一定の方向性を示すことができたのではないかと思っています。

 

運営的には、5月18日という日程が高校の中間テストを重なるところが多く、実施が難しかったというご意見を高校の先生方からお聞きしました。あと高校生は、やはり一般受験より団体受験のほうが受けやすいようですので、次回からはそのようにしていこうと思っています。

 

さて次回情報入試の模試です。すでに第2回模試は来年(2014年)はじめに予定しています。個人受験は受付が1月1日~1月24日。模試の実施日は2月22日。団体受験は力を入れたいと思い、実施可能機関を長く取りました。団体受験は2月10日~3月15日の間であればいつ実施していただいても結構です。

 

次回は試験時間45分の問題を2つ、合計90分で準備します。つまり45分の問題を2つ、両方実施していただくということが原則ですが、どうしても片方しかできないという高校もあると思いますので、そういうところはできる範囲内で実施していただければと考えています。

  

 

【質疑応答】

◆高校教員――次回の模試の試験時間は45分×2=90分ということですが、90分まとめて受験も可能ですか。

 

◇植原――可能です。45分の模試を授業中にやり、次の週に残る45分をやっていただいても結構です。

 

 

◆高校教員――自分もこの2013年模試を受けたのですが、70点くらいしか取れず、ちょっと残念でした。受験後、主催側から解答を公表することをしばらく差し控えてほしいと言われましたが、参加者としては、なるべく早くこんな模試を受けたと公表したかったと思います。

 

◇植原――団体受験と個人受験の日がずれているので、高校生の団体受験まで解答が漏れないようにお願いした次第です。来年の第2回模試は、個人受験の実施日2月22日、団体受験の実施日が2月10日~3月15日ですので、3月15日から1か月以内に公表できる予定でいます。

 

 

◆高校図書担当教員―― 一般にセンター入試の場合、受験生は60、70点取れればいいと考え、問題を作成する側の先生は苦労されているそうですが、今回の情報入試の模試は、高校生が何点を取れればいいと考えて問題をお作りになりましたか。

 

◇植原――問題を作る側の苦労という意味では、わざと難しい問題と簡単な問題をちりばめたつもりです。ただ、どこかの大学のアドミッションポリシーに従って問題を作ったものではありません。むしろ各大学が情報入試を導入するための考える材料となるように作りました。そういうこともあって、この模試では必ずしも何点とってほしいということは考えておりませんでした。