ジョーシン2013

講演「団体受験を実施してみて」

井上勝先生 八千代松陰高等学校


井上勝先生
井上勝先生

本日は講演というより、実際に情報入試の模試を受けた高校生のナマの声を紹介したいと思います。

 

私どもの学校は、全日制・普通科の男女共学。創立36年のまだ新しい学校です。高3は15クラス。高校1、2年は臨時定員増があった関係で、2年は17クラス、1年は18クラス。大規模校なので、入学してくる生徒の学力差はけっこうあります。

 

教科「情報」の授業は、1年で新学習指導要領の「社会と情報」を2単位履修します。昨年度までの旧課程でいうと「情報C」を、同じく1年時に2単位履修しました。「情報」の授業は、他科目が習熟度別に授業クラスが編成されている関係でホームルームクラスとは違ったクラス編成で行われています。現在情報科教員は5名。そのうち情報の専任は私だけです。

 

今回の団体受験の試験日は、中間テスト直前の土曜日だったため、皆に受験しろというのは難しかったので、2、3年生の特進(IGS)コースの担任を通じて「興味のある人は受けてみませんか」と生徒に声をかけてもらったところ、4名の子が手を挙げてくれました。

 

模試の試験範囲は、生徒が履修していない「科学と情報」。旧過程でいえば「情報B」を含みます。その部分は全滅でもいいだろうと考え、事前指導は特にしなくてもいいだろうと判断しました。

 

受験者の希望進路・受験の動機

 

模試を受験した4名は以下のとおりです。

  希望進路 受験動機
A君  (3年男子) W大学人間科学部人間情報科 「情報」の力を確かめるため
Bさん(2年女子) 教員 数学科 なんとなく
Cさん(2年女子) C大学工学部ナノサイエンス学科 「情報」の力を確かめるため
D君  (2年男子) 漫画家 電気・電子・情報学科 先生に勧められたため

A君(3年男子)はW大学人間科学部人間情報化学科を目指しています。模試受験の動機は「情報の力を確かめるため」です。

 

Bさん(2年女子)は、将来、数学の先生志望です。受験動機は「なんとなく」でした。

 

Cさん(2年女子)はC大学工学部ナノサイエンス学科志望です。受験動機は「情報の力を確かめるため」。

 

D君(2年男子)は、ユニークで、将来は漫画家になりたいそうです。ただし、まず大学に行って情報関係の勉強をしたいという希望を持っています。受験動機はD君のみ、担任の先生に勧められたからでした。

 

 

受験結果

 

  総得点 問題1 問題2 問題3 問題4 問題5
共通問題 プログラミング アルゴリズム グラフの表現 著作権
A君  (3年男子) 51 13 0 12 12 14
Bさん(2年女子) 37 10 0 10 10 7
Cさん(2年女子) 38 10 0 8 7 13
D君  (2年男子) 25 12 0 4 5 4

A君は総得点51点。Bさん37点、Cさん38点、D君25点です。

 

第2問のプログラミングの問題は、予想通りというか、全員とも全滅でした。これはいたし方ありません。本人たちにも「プログラムの問題が出るけど、高校でやってないからできなくてもいい」とあらかじめ伝えてありました。

 

しかし、第3問のデータベース設計の問題は、習っていないのに思った以上にできたかなと思います。ある程度、日本語を読む力があれば、これくらいは取れるのかなという印象を私は持ちました。

 

第1問の共通問題は、第4、第5問に比べて基礎的な問題だったので、もう少し点を取ってほしかったというのが私の感想です。

 

 

問題の難易度について生徒の感想

 

・A君(3年男子)は「常識の範囲内で簡単に解ける問題があった反面、高度な知識を必要とする問題もあり、難問と感じる問題もあった」と答えています。

 

・Bさん(2年女子)は「難しかったです。プログラムの問題以外は授業で扱った問題が多かったけれど、解けないのは身についていないと感じました」と言っています。Bさんは先ほど紹介したように、将来は数学の先生を目指しています。

 

 

受験者数や問題の解説の情報もほしい

 

返却されての感想としては、

・A君は「結果を見て記述問題の正答率はかなり良かったが、基礎知識を忘れてしまったため、知識問題のできが悪く、しっかり勉強し直そうと思った」と答えています。知識問題のできが悪いというのは、おそらく第1問の共通問題のことを指していると思われます。

 

・Cさんは「全受験者数を知りたい。解説がほしい。情報の入試のイメージがわかり、よい体験になった」と答えています。やはりどんな人がどれくらい受験したかを知りたいのでしょう。

 

解説がほしいという感想のCさんに、採点基準を見せましたが、「もっと詳しい解説がほしい」と話していました。

 

「センター試験の科目に『情報関係基礎』という科目があることは知っていますか」と聞きますと、「知っている」と答えたのは2名、「知らなかった」と答えたのは2名でした。

 

また、「第1志望の大学・学部・学科の入試科目に選択科目として『情報』があれば選択しますか」という質問については、「選択する」が2名、「選択しない」が2名でした。

 

「入試科目として『情報』を勉強することは自分の将来に役に立つと思いますか」という質問に、

・A君は、「インターネットが普及している今の時代にはあらゆる職業、日常生活において「情報」の知識は必要不可欠なものなので、高校生のうちに入試科目として「情報」に触れておくことはとても役に立つと思う」と答えています。

 

・Bさんも「役に立つと思う。資料作成やデータ分析するのに役に立つと思う」と答えています。これは第4問の社会と情報分野から出題されたグラフ表現に関する問題を見て、Bさんなりに感じたことだと思います。

 

 

情報を系統的に学ぶことは必要だから

 

「入試科目として「情報」を採用する大学が増えていくと思いますか」には、「増えていく」と答えたのは3名、「増えていくとは思わない」と答えたのは1名でした。

 

関連して、「入試科目として「情報」を採用する大学が増えてほしいですか」という質問には、「増えてほしい」と答えたのが2名、「増えてほしいとは思わない」が2名という結果でした。

 

入試科目と情報について思うところとして、「学校教育の中で情報に関する内容を系統的に学ぶことができないため、情報の知識が十分に備わっていない若者が正しくない方法でインターネットを使い、様々な問題が起きてしまっているのでないかと思う。そのような問題を少なくするためにも入試に情報を課す大学が多くなればよいと思う」という感想がありました。

 

この感想を述べた生徒は自分自身、小中高校を通して系統だった情報教育を受けてきていないと言っています。なかなか鋭いぞと思いました。

 

地道に認知度を高めていくことが大切

 

受験者数4名と少人数でしたが、生徒にとっても私にとってもよい経験だったと思っています。統計資料としては4名ではグロス集計もないですが(笑)。

 

「社会と情報」しか履修していない生徒に、「情報の科学」の問題はちょっとかわいそうと思いましたが、情報入試はまだまだ過渡期にあるので、実施する側も割り切ってやっていくしかないのではないかと思います。情報という入試科目もあるんだぞ、という認知度を地道に高め広めていくことが、さらなる発展につながるのではないでしょうか。

 

 

【質疑応答】

高校教員――「社会と情報」しか履修していないのに第3問のデータベースの問題はよくできたというのが井上先生の感想ですが、科目として勉強してなくても、データベースに関連したことで何か教えてられたのでしょうか。

 

井上――いえ、データベースの授業はやっていません。ですから、日本語を読む力があればこれぐらいできるのでは、というのはまったく正直な私の感想です。

 

 

高校教員――A君BさんCさんは自分から手を挙げて模試に参加したが、D君のみ先生に勧められた参加ということですが、D君は「情報」はあまり得意科目じゃなかったということでしょうか。

 

井上――受験動機の質問も含めて生徒にアンケートを実施したのは答案を返却の後でした。D君の点数は一番低かったので、それを見て、自分でも何か感じるところがったのでないかと推察しています。

 

 

高校教員――生徒の学びのモチベーションをいかに上げ、一生懸命勉強すればこういう成績につながり喜びにもつなげることができる。情報入試の試みを契機に、そういうことを教科「情報」のなかでもしっかり位置づけることがそろそろ必要なんじゃないかと、感じました。

 

井上――ありがとうございます。がんばっていきたいと思います。