特集 学習目標を意識した指導と評価

事例5 都の事業による「学力スタンダード」導入で

教科間連携を促進

東京都立成瀬高等学校 青田一志先生(進路指導部主任、国語科)


青田一志 先生
青田一志 先生

東京都立成瀬高等学校は、東京都の南西部に位置する町田市に1977年に創立された進学校である。成瀬高校では、2010年から「成瀬スタンダード」と名付けた成瀬高校生として必要な学力を保証するための徹底した学習指導を実施してきた。また2013年度には、「都立高校学力スタンダード」の推進校に指定され、学習目標を明示した上での学習指導に取り組んでいる。そこで、進路指導部主任で「都立高校学力スタンダード」推進委員でもある国語科の青田一志先生に、「成瀬スタンダード」の内容と「都立高校学力スタンダード」の現状について、話を伺った。

「成瀬スタンダード」で基礎学力の向上と家庭学習の時間確保をめざす

東京都立成瀬高校は設立以来、国公立大学や首都圏の有名私立大学に合格者を輩出する進学校として地域の期待にこたえていたが、近年進学実績が下降気味にあった。そこで、2010年、英語・数学・国語について「成瀬スタンダード」を導入して、生徒の希望する進路実現をめざすことにした。「成瀬スタンダード」とは、成瀬高校の生徒として必要な学力を身につけることを目標に、家庭での学習習慣をつけ、減少傾向にあった家庭学習の時間を増やし学力向上をめざす取り組みである。具体的には、1、2年生に対して、英語・数学・国語3教科において、土曜日の授業のない隔週末ごとに自宅課題を課し、その内容を定着させるために、週明けに小テストや補習を行っている。例えば、英語科は毎回範囲を定めて、英文法と単語の小テストを行い、合格するまで追試験を実施する。数学科は各学期1〜2回「数学検定」という独自の検定を実施し、合格するまで補習や追試験を行っている。国語科は生徒の多くが苦手とする古典文法に関するドリル形式の週末課題を出し、週明けに模範解答を配布して自己採点をさせている。また、読書量が減っており、これが語彙力や読解力の低下につながることから、1カ月に1冊程度の課題図書を出し、内容をたずねる簡単なテストを行っている。


「生徒は定期考査の前はよく勉強しますが、普段から勉強をさせるのは難しいものです。しかし小テスト等があることで、生徒はそれを目標に日頃から勉強するようになりました。各教科がそれぞれの方法で、全ての生徒の学力が向上するように、支援を充実させています」(青田先生)


また成瀬高校では、小テストに合格するという目の前の目標以外に、将来の夢という大きな目標を持たせることで、生徒の学習に対する動機付けにつなげている。具体的には、1年生全員を対象に、毎年4月に2泊3日の日程で「成瀬スタディキャンプ」を実施し、高校生としての学習法の習得を行う。また、「ようこそ先輩」と銘打って卒業生を招き、高校時代の過ごし方や大学の志望理由などを話してもらっている。


「先輩の言葉を通して、大学への憧れと目標を持たせることが狙いです。そして目標を実現するために今、何をすればいいのかを考えるよう促しています。ほかに大学教員による模擬授業を行うなどして、学問への興味関心を喚起しています」(青田先生)


こうした一連の取り組みによって、近年、大学への現役合格率は上昇し、国公立大学や有名私立大学への合格者も増加している。

「『都立高校学力スタンダード』活用事業」により教科間の連携が促進

さらに、2013年度からは「『都立高校学力スタンダード』活用事業」により、「学力スタンダード」を導入した。「『都立高校学力スタンダード』活用事業」とは、東京都教育委員会が都立高校生の学力の定着と伸長を図るために行っている事業だ。具体的には、学習指導要領の内容・項目ごとに具体的な学習目標を示した「基礎」「応用」「発展」の3種類の「都立高校学力スタンダード」を作成し、これを参考に、各高校は自校の生徒の実態に合った独自の「学力スタンダード」を作成し、組織的・効果的な学習指導を実施していく。

 

成瀬高校は2013年度から32校の推進校の1つとして、他校に先駆けて1年生の履修科目であるコミュニケーション英語I、数学I、国語総合、世界史B、化学基礎において、今年度より2年生の履修科目であるコミュニケーション英語II、現代文、数学II、日本史B、物理基礎、生物基礎において、「都立高校学力スタンダード」の「応用」を自校の学習目標として採用し、成瀬高校の「学力スタンダード」<図表1〜2>として運用している。


<図表1>成瀬高校 学力スタンダード(「コミュニケーション英語Ⅰ」、一部抜粋)

<図表2>成瀬高校 学力スタンダード(「数学Ⅰ」、一部抜粋)

推進校の取り組みとして2年目に入ったが、「学力スタンダード」導入の成果として、青田先生は「学校全体で生徒の学力を向上させようという意識づけができた」ことを挙げる。推進校になったことに加え、校内で教科主任会を月1回開くことにより、教科間の連携がより密になったという。


「教科を超えて話す機会が増えると、例えば古文と日本史で、重なる内容を学習していることがわかります。授業でその関連性に触れれば、生徒の理解の深さが変わりますし、どの教科も幅広く学ぶ必要があるということも伝わります。また、自宅課題の量を、教科を横断して調整できれば、ちょうど良い量の課題を生徒に出すことができ、効率的な学習につながると期待できます」(青田先生)


また、教員個人が授業を振り返るきっかけにもなっている。「学力スタンダード」導入をきっかけに、「学力スタンダード」の項目を意識した問題を定期考査に入れて、授業成果を確認している。


「『学力スタンダード』導入により、これまで教員それぞれが経験から考えていた生徒に身につけさせたい学力が明文化され、生徒や保護者にも示されることになり、教員は常に目標を意識しながら授業に取り組むようになると思います」(青田先生)


「学力スタンダード」に基づいた学習目標の到達度については、2月に行われた都教育委員会が作成した学力調査を用いて、全1年生に対して学習成果を測定することとなった。学力調査は、「基礎」「応用」「発展」の3種類の試験が作成され、成瀬高校では全科目「応用」を選択した。


「学力調査の結果、例えば国語では、慣用句や古文の接続助詞などの知識が不足していることがわかりました」(青田先生)


さらに推進校は、学力調査の結果に基づき、目標に到達しなかった生徒に対して振り返り学習をすることが求められた。3月に行う振り返り学習の時間の確保については、特に苦労したそうだ。


「年度末であり日程調整は難しかったのですが、何とか日程を確保できました。年度末にテストがあることで、生徒は1年間学んだことをもう1度復習することになり、学習内容の定着につながると思われます」(青田先生)


「学力スタンダード」は今年、推進校では2年生までの実施、1年生については全都立高校(注1)で導入された。今後について青田先生は、「100校あれば100のスタンダードがあって良いということですので、学校によって重点を置く箇所に緩急をつけながら取り組んでいけば、徐々に、学習目標到達をめざした全校一丸となっての指導につながっていくと考えています」と話す。

東京都立成瀬高等学校

◊所在地 : 東京都町田市成瀬7-4-1
◊沿革 :

1977(昭和52)年 創立

2007(平成19)年 創立30周年記念式典挙行

◊学級編成 :  [全日制]普通科各学年7クラス
◊生徒数 :  833名(男子427名、女子406名)2014年4月9日現在
◊特色 :  町田地区に進学校をとの地元の熱心な誘致運動により、1977年に創立された。校訓は「珠玉、磨きて光あり」。生徒の8割が部活動に加入しており、知徳体のバランスのとれた高校生活を送りながら、生徒の希望する進路実現に向けて、きめ細かい生活指導と学習・進路始動体制を確立している。
◊卒業生の進路 :

 2014年3月卒業生 275名

  • 進路:4年制大学 175名、短期大学 7名、専門学校 26名、就職 1名、
    その他 66名
  • 合格者の内訳(現役生、実進学者数):国公立大学 5名、私立大学 170名

 

(注1)進学指導重点校、中高一貫教育校、夜間定時制および通信制高校を除く。

※Kawaijuku Guideline 2014.9より

(本文中の所属・役職などはすべて取材時のものです)