中高生のネット依存やトラブル

第2回 依存やトラブルに巻き込まれないネットとの付き合い方をどのように教えるか

■努力したくない子ども達が、ネットの世界の全能感にひたってしまう


最近の子ども達は、ネットの長時間利用について罪悪感がなくなっていると感じます。ネットと四六時中付き合うことが楽で楽しい仕事になるから、YouTuberになりたいという小学生もいます。その人達がそのためにどんな準備をしたり、努力をしたりしているかということは見えないので、全く考えていません。


また高校生や大学生でも「将来フリーターになりたい」と言う子がいます。努力をするのはイヤ、そこそこやっていければいい。努力したり辛いことを我慢したりまでして、現実の世界で成功するということに生きがいや価値を感じていないのです。その一方で、ネット依存の人の特徴的な傾向として、「無意味な優越感」というものがあると思います。ネットの世界で注目を集めることで、ネットのコミュニケーションを勘違いし、世の中を手玉に取れる全能感に似た感覚を持つのでしょう。またネット内での誹謗中傷にも徐々に麻痺し、自分が嘘をついたりどぎつい言葉で誹謗・中傷したりすることも平気になってしまうのです。依存すればするほど、一般の人との感覚の乖離は広がってしまい、そうなると現実よりネットの中のほうが居心地がよく、ネットだけが居場所になってしまうのです。

私自身は、ネット依存は病気であると思います。アルコールや喫煙、ギャンブルなどの依存と同様に、自分が依存症になっているとは認めたがらない「否認の病」です。「自分はネット依存ではない」というだけでなく、「確かに問題はあるが、やめようと思えばいつでもやめられる」「多少依存していると思うが、それほどひどくない」と思い込んでしまったり、ネットの使い過ぎを指摘されると、キレたり理由をつけたがったりするというのが特徴的な傾向です。


しかし、精神科の医師の中には、「依存は病気ではない」と考える人もいます。精神科での治療はハードルが高いので、医師に相談するなら精神科だけでなく、小児科や内科、眼科に睡眠不足や視力の低下で相談に行くのもよいかもしれません。


■単にネットに触れない時間を作るだけでは、根本的な解決にならない


こんなパターンもあります。「受験勉強の期間中、ネトゲ(ネットゲーム)は一切やらない」と決めて、ゲームを我慢する子がいます。とても立派ですが、実はこれには落とし穴があります。


中学1年生の男の子から聞いた話ですが、友達のおよそ7-8割がパズドラに熱中しているので、理由を調べたところ、パズドラの裏ワザで「連続〇〇日ログインしたらボーナスで魔法石がもらえる」いうものがあり、受験勉強の間はログインするだけでゲームは我慢していた、というのです。そして、中学に合格してゲームが自由にできる環境になった頃には、魔法石が貯まっているので何時間でもプレイできるので、それがどっぷりはまり込むきっかけになるというのです。受験勉強が終わってぽっかり空いた時間。勉強が好きならば、勉強を続けることはできますが、受験だけが目的の勉強をしていた子は空いた時間を埋められず、ゲームに走ってしまうのです。私立の中高一貫校の先生からも同様の相談を受けます。この例から言えるのは、単にスマホやゲーム機を触らないようにしよう、というだけでは根本的な解決にならない、ということなのです。

ネット依存は、スマホやゲーム機といった道具自体に依存している場合が多いのです。依存しないためには、それらを道具と割り切ることが必要です。そのためには、まず「家族といる時間帯は使わない」「夜、ベッドに入ったらスマホの電源を切る」など、きちんと自分なりのルールを決めることです。そうして時間帯で区切ることができれば、ほぼ依存は回避できると言ってよいと思います。まず基本の生活スタイルを作り、その中で必要な部分だけスマホを使う、ということを意識させていきましょう。 

■依存に陥らない使い方や環境を、子どもと一緒に考えよう


学校でネットやスマホの使い方を教えたり、考える機会を与えたりすることは非常に重要です。時期は早ければ早いほどいい。現在ネットを使っていない子どもでも、ネットに関する知識やポジティブな利用、ネットのリスクなど考える機会をもつことは大事です。いざ使うときにも、予備知識を持っていて、大丈夫かな、とちょっとためらいながら親など大人と一緒に使うことが大事なのです。


ただ、その時にネットはダメとか、ネガティブな面ばかり伝えるのは逆効果で、いざ問題が起きたときにも親や先生に相談しづらくなります。さらに隠れてでも使うようになると危険です。逆に、ネットをうまく使った社会貢献やビジネスの成功事例など、ネットのポジティブな面を伝え、単純に遊ぶだけであったり、現実逃避や、誹謗中傷など時間を無駄遣いしたりするような使い方はカッコ悪い、最低な行為と考えられるようになると、依存に陥るような使い方は減ると思います。「ネットは素晴らしいものだけど、諸刃の剣なんだ。ポジティブに活用すべきで、つまらないことに使うのはやめよう」という意識を持たせてあげることも大事でしょう。

学校の先生方からうかがった話では、子ども達がLINEやツイッターなどのソーシャルメディアを日常的に利用するようになってから、トラブルがあった場合、当事者同士がソーシャルメディアで口裏を合わせたり、言い訳を言い合って自分達は悪くないことにしてしまったりするので、生徒達に注意することが難しくなっているそうです。また、かつては学校で喧嘩しても家に帰ればリセットできたのが、最近は帰宅後もソーシャルメディアで言い合いが続くため、問題が解決せず、かえって悪化するケースが多くなっているそうです。


図表:「中高生のスマートフォン等携帯電話利用に係る調査研究結果について(平成26年・警視庁)」より
図表:「中高生のスマートフォン等携帯電話利用に係る調査研究結果について(平成26年・警視庁)」より

先生方が子どもの指導がしづらくなっていることの背景に、先生方自身が子ども達のスマホ利用の実態を把握するのが難しい現状を感じます。お忙しいゆえにネット世界の変化についていけないという先生も多いでしょう。またネットを不必要と考える先生もいらっしゃると思います。


ある先生向けの研修会で、会場の先生方に持っているケータイの種類を聞いたら、若い先生でもガラケーの人が多かったということがありました。スマホを持っていないと、子ども達がスマホ特有のどんなトラブルに巻き込まれているのか理解することは難しいと思います。それでも、無理にスマホに変えなくても、ネットに詳しい先生やスマホを利用している先生、あるいは子ども達自身から情報を聞いて協力しあうという方法もあります。


子どもがトラブルに遭っても親や先生に相談しないもう一つの理由は、使ったことを叱られる上にスマホやゲーム機を取り上げられるのがイヤだからということがあります。子ども達の生活をこれだけ支配しているものを物理的に取り上げるのは、成長するほどに難しくなり、依存度が高い場合はかえって逆効果です。小学生なら親が毅然とした態度で取り上げれば、反省につながるかもしれませんが、中学校も2年生くらいになると、親を脅迫したり大人に隠れて使ったりすることに走ってしまいます。


スマホやネットの使い方について、大人よりも子ども達の方がずっとよく知っています。ですから、
利用や用語についてわからないことは子どもから教えてもらうくらいのつもりで、オープンに話し合おうとする姿勢が大切です。子ども時代にネットと付き合ったことのある大人はまだほとんどいないので、大人の価値基準で子どもを抑えようとしてはいけないと思います。ただ、マナーややっていいこと・悪いことなどなどのボーダーラインは大人がしっかりと決めておき、ブレないことが大事です。

 

■依存なんかしていちゃダメだ、という自覚を促す

図表:「中高生のスマートフォン等携帯電話利用に係る調査研究結果について(平成26年・警視庁)」より
図表:「中高生のスマートフォン等携帯電話利用に係る調査研究結果について(平成26年・警視庁)」より

家庭でスマホやゲーム機を使う際に、親子で話し合ってルールを決めることはとても重要です。そしてルールを決めるだけでなく、もし守らなかったら「免停」だよ、ということも決めておき、子ども自身に自覚を促すのがよいと思います。これは学校でも同様です。


それとともに、リアルな場面で子どもの承認欲求を満たしてあげることも大切です。子どもが「自分はこうなりたい」と思うことのために努力し、周囲もそれを認めて応援してあげるようにすれば、依存なんかしていてはダメということが自然に身に付いてくるでしょう。

残念ながら、どんな対策をしても依存してしまう人はいます。また依存しやすいタイプもあります。
しかし、子どもが依存に陥ってしまうことを防ぐ努力をするのは、ネット社会に生きる大人たちの責任です。親や教師だけでなく、様々な立場の人が自分のできることを考えていく必要があります。問題について考える機会も、一度だけでなく何度も繰り返してください。またリアルな生活の中で子ども達の好奇心を満たし、たくさんの経験をさせ、ネットのポジティブな利用を発信し、いざネットを使う時にはネットと胸を張って付き合えるようになるような話をしてあげてください。

[参考]
・遠藤さんの著作
 『脱ネット・スマホ中毒: 依存ケース別 SNS時代を生き抜く護身術!』
 『家庭でマスター!中学生のスマホ免許』
 『家庭でマスター!小学生のスマホ免許』
  (上記すべて誠文堂新光社)




・「高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査」
総務省情報通信政策研究所 平成26年7月
http://www.soumu.go.jp/main_content/000302913.pdf