日本情報科教育学会 第9回全国大会

教育改革を踏まえた教育の情報化

新津勝二氏 文部科学省 生涯学習政策局 情報教育振興室長 初等中等教育局視学官

1.我が国の教育の現状と課題

現在の職業の多くは人工知能やロボットに取って代わられる

グローバル化の進展の中で、我が国の国際的な存在感が低下しているのではないかという懸念があります。世界のGDPに占める日本の割合も低下し、2030年には3.4%になると予想されています。

 

また、少子高齢化の進行により、約50年後には総人口が約3割減少し、65歳以上の高齢者が4割を占める、超高齢化時代がやってくると見込まれています。それに伴って、労働の中核となる生産年齢人口についても、2010年に8000万人だったものが2060年には約半分の4000万人に減るということも予想されています。

そのような中、今の小学生、子どもたちの未来はどうなるのでしょう。今の小学生の65%は、大学卒業後に現在は存在していない職業に就くというアメリカの研究報告があります。

 

日本においても、昨年2015年末の野村総合研究所の報告で、労働人口の約半分が人口知能やロボットなどに代替可能になるであろうというものがありました。つまり、現在ある職業の多くは今後なくなっていくという時代がやって来ることが予想されているのです。

しかし、ここで気をつけなければいけないことは、職業が半分なくなったままではなく、高度な技術を使いこなすための新たな職業が登場するということです。さらに最も重要な点は、野村総研の報告にもありましたが、人とのコミュニケーションを必要とする仕事はなくならないであろう、ということです。ですから、おそらく教師という職業はなくなりません。人間性や協調性、主体性、いわゆる汎用的能力を持った子どもたちを育てて社会に出すということが、私ども教育関係者の役目ではないかと考えているところです。

 

ここで、2000年に開始された高校生の学習到達度調査(OECD)の結果を見てみましょう。15歳児、我が国では高校1年生を対象としたものです。2003年、2006年と成績が下がっています。いわゆるPISAショックというものですが、この時期は学習指導要領改訂とも重なり、授業時間数を削減したので成績が下がったと報道等で言われてしまいました。

 

しかし、その後、2009年、2012年と右肩上がりとなり、2012年の結果では読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野で全体の1位、1位、2位ということで、平均得点も比較可能な調査回以降、最も高くなりました。学力は向上したという結果です。

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この結果を分析すると、成績下位層の得点が上昇したということが言えます。それは、総合的な学習や言語活動の充実などの成果が出たとも言われますが、まさに、日本の先生方の、学習指導、成績指導、生活指導に加え、部活動指導までを含むきめ細かな指導の賜物ではないか、ということを強調しておきたいと思います。

しかし一方で、数学的リテラシー・科学的リテラシーの成績が上がったにもかかわらず、中学生を対象とした意識調査では、「数学と理科の勉強は楽しい」とか「数学、理科を使うことが含まれる職業に就きたい」という点で、国際平均に比べて日本の中学生はかなり低いという結果も出ています。

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さらに、高校生に対して自己肯定感、社会参画に関する意識、特に、「自分の参加によって変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」という問いをしたところ、韓国、中国、アメリカの高校生は7割が「変えられると思う」と答えているのに対して、日本の高校生は逆に7割が「変えられると思わない」という意識を持っています。

 

つまり、日本の今の教育においては、学力は向上したけれども、意識、意欲の面で大きな課題があると言えるわけです。 

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2.学習指導要領の改訂

学習指導要領改訂の変遷

このような現状と課題を踏まえて、現在約10年ぶりの学習指導要領改訂の検討が行われています。

そもそも学習指導要領とは、全国どこの地域でも一定の水準の教育を受けられるようにということで、教育課程を編成する際の基準を文部科学省(以下、文科省)が告示という形で定めているものです。

 

指導要領が告示という形で世の中に出たのは、昭和33年が最初です。この頃の総授業時数を見ると「小6:1085/中3:1120」となっています。その10年後、昭和43年は、小学6年生はそのままですが、中学3年生は1155ということで35コマ、つまり週1コマ分増えたわけです。昭和43年と言えば、まさに日本は高度経済成長期で、この時に教育内容を一層向上させようということで授業時数を増やしたわけです。

 

しかしこの時、全国で中学校を中心に校内暴力が起こりました。その原因は、当時の文部省が授業時数を増やして、いわゆる「詰め込み教育」を行って、授業についていけなくなった子どもが精神的に不安定になったのが原因ではないか、と報道等から言われました。そこで10年後の昭和52年の改訂の時には、学習負担を適正化しましょうということで、授業時数を小学6年生で70時間(週2コマ)、中学3年生は105時間(週3コマ)減らしました。

 

しかし、校内暴力は下火になったものの、いじめや学級崩壊の問題は残りました。そして平成元年の改訂となりました。この時、私は文部科学省に採用されて指導要領改訂の担当をしましたが、「心の豊かな人間を育成しましょう」ということで、授業時数は変えませんでしたが、道徳教育の充実等が行われました。

 

また、現在アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善ということで、思考力・判断力・表現力を向上させようということを行っていますが、実はこの平成元年の改訂時から、「新しい学力観」ということで思考力・判断力・表現力を重視しましょうということが示されていました。小中学校を中心に、グループ学習や協力的な学習は、この時に始まっていたのです。

 

その後、平成14年4月に学校5日制が完全実施されるのあたり土曜日のコマ数を減らさざるを得なかったので、平成10年の改訂では、教育内容を厳選しつつ、基礎・基本を確実に身につけさせ、「生きる力」を育成しよう、ということになりました。その中で、土曜日については子どもを家庭や地域に戻して生きる力を育んでもらうことにしたのです。

 

これが学力が低下したPISAショックの時期と重なってしまったので、文科省が授業時数を減らしたせいだ、ゆとり教育を導入したからだ、と言われました。実際のところ文科省自身は「ゆとり教育」という文言は一言も使っていませんが、マスコミ報道ではそう言われてしまったのです。

 

つまり、授業時数を増やした時には校内暴力が増えたため「詰め込み教育が悪いから校内暴力が増えた」と言われ、今度は「授業時数を減らしたゆとり教育のせいで学力が低下した」と言われてしまいました。ここで何が言いたいかというと、学習指導要領は文部科学省や国が独断で決めているということではなく、そういった社会情勢、世論等を踏まえて改訂しているということを、ぜひご理解いただきたいと思います。

 

現行の指導要領は平成20年に改訂されたものですが、生きる力の育成や基礎・基本、思考力・判断力・表現力の育成という成果のあるものはそのまま引き継ぎ、授業時数は1コマ分増やしています。

 

 

現在行われている学習指導要領改訂の背景~高度情報化に対応するために

そして、今検討している学習指導要領の背景を説明します。

 

我が国が今まで行ってきた習得・活用・探究を重視した学校教育の強みは、人工知能(AI)進化でも実証されていると言われています。そして、これからの時代に求められる知識や力とは何かを明確にして、教育目標に盛り込むことで、どんなに社会が急激に変化しても、子どもたちが未来の創り手となるための必要な知識や力を確実に身につけられる学校教育を実現しようとしています。

 

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人工知能は、既存の大量のデータをインプットし、それを活用して未知のことに対応していくプロセスを編み出したことで進化したといわれています。2016年3月、囲碁の世界で、アルファー碁というコンピュータが世界チャンピオンに勝ち、世界的な衝撃が走りました。囲碁は将棋以上に何万通りも打ち手があるので、コンピュータは人間に勝つことはできないと長らく言われていました。しかし、アルファー碁を2台用意してコンピュータ同士で対戦するという強化学習をすることで、大量のデータが蓄積され、それを受けて未知の結果についても概念を活用できるようになり、気づいたら人間に勝ってしまったということです。このことは、情報化が我々の予想より10年早く進んでいる証拠ではないかと私は考えています。

 

いずれにせよ、新しい教育課程では、学校教育のよさをさらに進化させつつ、我が国の先生方の強みである「授業研究」を通じたさらなる授業改善を実現するというのが、学習指導要領改訂の背景になっていると思います。 

 

新しい時代に必要な資質・能力の育成を「何ができるようになるか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」の観点から整理

このような社会的な背景を踏まえて、新しい時代に必要となる資質・能力を、もともとある学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」学校教育法第30条2項)を、子どもの立場から見た「何ができるようになるか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」という3本の柱で整理してみましょうというのが、今回の指導要領の改訂の最初のポイントです。

 

具体的には、まず、「何を知っているか・何ができるか」ということで、個別の知識・技能を身につける。そして、身につけた知識・技能を生かして、知っていること、できることをどう使うか、ということで思考力・判断力・表現力等を身につける。そして、知識・技能、思考力・判断力・表現力を身につけた上で、どのように社会や世界と関わりよりよい人生を送るかということで、人間性や学びに向かう力を身につける。以上3つの柱に整理されています。

 

子どもたちが「何ができるようになるか」という視点から、まず「何を学ぶか」で必要な知識・技能を身につけること。どちらかというと今までの教育課程ではここに重点が置かれていました、今回は授業時数は減らさないという前提で、今まで通り知識・技能の習得は重視しつつ、その知識・技能を生かしてさらに「どのように学ぶか」ということで、「課題の発見・解決に向けた、主体的・協働的な学び」いわゆるアクティブ・ラーニングの視点から、今までの授業を見直しましょうということが大きなポイントになっています。

 

「主体的・対話的で深い学び」を実現することによって、新たな知識・技能が身につけられ、その結果として新たな問題が発見され、それを解決するためにさらにアクティブ・ラーニングの授業を行い、さらに知識・技能を積み重ねていく。こうして、生きるための知識・技能が積み重なっていくというのが、今回の改訂の狙いだと思います。

 

その結果として「何ができるようになるのか」。学習評価の充実も大切であるということで、2つ目のキーワードとして「カリキュラム・マネジメント」という言葉が出てくるわけです。

 

さて、昨年2015年8月に出された「論点整理」の中から、情報教育に関する箇所を振り返ってみたいと思います。予測できない未来に対応するためには、受け身の対処ではなく、主体的に課題と向き合って関わる必要があるということ。そして、最も重要なのことは、蓄積された知識を礎としながら膨大な情報から何が重要かを主体的に判断して自ら問いを立て、解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくということ。このことが、まさに、アクティブ・ラーニングのことではないでしょうか。 

そして急速に情報化が進展する中で、情報や情報手段を主体的に選択して活用していくのに必要な情報活用能力を、高校の教科「情報」や中学校の技術分野だけではなく、小学校段階から各教科における教育活動を通じて体系的に育んでいくことが重要と明記されています。また、ICTの急速な進化で、これからはコンピュータを使いこなすだけではなく、その裏側の仕組み、ネットワークの仕組みを、全ての児童・生徒が理解しなければいけない時代がもう来ている、ということも明記されています。

そのような中で、カリキュラム・マネジメントの実現やアクティブ・ラーニングの視点に立った学びを推進するために、先生方の定数拡充を図ることはもちろんですが、同時にICTも含めた必要なインフラ環境の整備を図ることも重要ということが、明確に書いてあることは、注目すべき点です。

また、日本の児童生徒は読解力が足りないという調査結果が発表され、やはり言語活動の充実や読解力の育成も今まで通り重要であります。加えて、情報に関しても、プログラミングや情報セキュリティをはじめとする情報モラルなどに関する学習活動の充実を小学校段階、発達段階に応じて図ることが必要であるとされています。

 

なお、論点整理の重要部分に、各教科等WGで検討された内容が追加され、中教審教育課程部会の審議のまとめが8月下旬に公表される予定です。

 

「情報の科学」の必履修化とそれを発展させた選択科目の必要性

高校の共通教科「情報」は、現行では情報社会に参画する態度に重点を置く「社会と情報」、情報の科学的な理解に重点を置く「情報の科学」の2科目の中から生徒が選択するのが望ましいとされていますが、その履修率は、「社会と情報」が8割、「情報の科学」が2割という現状で、とてもバランスの悪い結果になっています。

 

しかしこれからは、文系、理系の別や卒業後の進路と関係なく、全ての児童生徒が科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力を身につけることが重要です。そこで「情報の科学」をベースにした1科目の必履修科目を設けよう、さらにそれを全ての生徒が履修したことを前提として、発展的な内容の選択科目についても検討し、選択科目を設けようということで、詳細な内容の検討をしているところです。

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このように、高校の情報が充実することに関連して、中学校の技術分野における「情報に関する技術」の指導内容も充実させようとしています。また、繰り返しになりますが、小・中学校段階からの各教科等における情報活用を育成するための指導の充実についても検討されています。

 

3.高大接続改革

大学入学者選抜試験改革と連動し、高大連携の教育改革を図る

今回の学習指導要領の改訂は、初中等教育から大学教育へのいわゆる「高大接続」と密接に関係します。すでに大学においても、3つのポリシーの一体的な策定と、それを踏まえた大学教育の質的な改革を通して受け身の教育から能動的な学修へ転換する改革を目指すことが検討されています。

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このため、初等中等教育改革と高等教育改革を一体化させるために「高大接続改革」として、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と、センター試験に代わる「大学入学者学力評価テスト(仮称)」という2つの新テストが検討され、最終報告されています。両テストにおいても、知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力を問う問題も出題することが検討されていることは注目すべき点です。

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なお、2016年3月31日の最終報告にありますが、「教科『情報』に関する中央教育審議会の検討と連動しながら適切な出題科目を設定し、情報と情報技術を問題の発見と解決に活用する諸能力を評価する」ということで、対象とする科目として「情報」が検討されているのだと思います。 

さらに、記述式の問題や、動画を用いるなど様々な出題が可能となるコンピュータを使ったテストを導入するということも検討されています。この点はPISA調査も、2015年にすでにコンピュータを使ったテストに移行していますので、そういった流れにも対応しているということではないでしょうか。

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現在の中学校2年生からは新テストでの大学入試へ

これらを工程表にまとめたものがこちらです。下から2番目が高校改革になります。

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2016年中に中教審の最終審議のまとめが出て答申が出されます。答申が出されると1年後に文科省告示という形で学習指導要領が改訂されます。その後、1年かけて周知徹底され、教科書が作られ、検定を通り、採択され、供給されるということになります。現在の予定では小学校が2020年度から新しい教育課程、中学校は2021年、そして高校では2022年度から学年進行で実施されるというようなスケジュールが想定されています。

 

「高等学校基礎学力テスト(仮称)」・「大学入学者学力評価テスト(仮称)」(以下、新テスト)についても、指導要領の予定を踏まえて2016年中に実施方針が決められます。具体的には2019年度の高校2年生から「高等学校基礎学力テスト(仮称)」を試行という形で導入し、その学年が3年生になる2020年度に「大学入学者学力評価テスト(仮称)」が導入されるというスケジュールが予定されています。2016年度時点で中学校2年生以下は、新テストの対象になるということは押さえておかなければなりません。

 

4.教員のICT活用指導力向上

教科「情報」を専任で教える教員の確保と質の向上が急務

先生方のICT活用指導力に関して、2007年度から「教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」「授業中にICTを活用して指導する能力」「児童のICT活用を指導する能力」など5項目に関して実態調査をしています。毎年右肩上がりになってはいるものの、「児童のICT活用を指導する能力」についてはまだ7割を超えていません。これは、学校現場の環境整備との関係もありますが、指導力向上に関しても課題があるということです。

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なお、こちらも環境整備とも関係しますが、研修に積極的な自治体と消極的な自治体があり、格差が広がってしまっています。

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生徒が課題や学級の活動でICTを用いることに関して、国際的に比べると、日本の先生方は指導に苦手意識があるという調査結果もあります。現職の先生方の研修においても、また養成段階の研修においても、新たな、ICTを活用した授業、またはアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善ということで、対応が喫緊の課題です。これについては、学会や大学の先生方を中心に、ぜひお力を貸していただきたいと思っています。

 

教育職員免許取得条件の改正も検討

現在、免許法の改正も検討されています。現行では教育課程や指導に対する科目の中で一部情報機器及び教材の活用を含むことを学ぶということになっていますが、教育職員免許法改正案として、すでに各教科等の指導法において情報機器及び教材の活用を扱うということで、全ての教科等において、ICTを活用した授業を展開する前提で養成していくことも検討されているわけです。

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2015年度に、高等学校で情報科を教える先生の免許状の状況を調査しましたが、数学や理科の先生が兼任で教えている学校が半数、免許外の先生が教えているところが3割。情報科の専任の先生を雇用している高校は2割しかありません。

 

このことが、直接関係しているわけではありませんが、「情報の科学」を開設していない学校が8割あることにつながっているのかもしれません。2022年の学年進行に向けて、「情報の科学」を指導することのできる先生方の研修、または採用を真剣に考えなければならない時代が目の前に来ているということを改めて申し上げたいと思います。本件に関しては2016年3月に、免許状「情報」保有者の配置の促進についてお願いの通知の中で、臨時免許状の安易な授与は行わないようにしてください、また、専門性の向上に努めていただきたいということもお願いしていますので、管理職の先生方、教育委員会の皆様にはぜひご対応をお願いいたします。 

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5.教育の情報化の現状と課題

教育の情報科の理想的な実現のための環境の整備・研修の充実が急務

教育の情報化を推進する目的は、次の3つの側面を通じて教育の質向上を図ることにあります。

 

1つ目は、ICT化が進む中で、全ての児童生徒にバランス良く情報活用能力を育成すること。3観点と言われる「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の中で、実践力や情報モラルを学ぶにしても、コンピュータやネットワークの裏側の仕組みを知らないと真の能力は身につかないのではないかということで、この3観点をバランス良く小学校段階から各教科等の教育活動を通じて育成する必要があるということです。 

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そして2つ目は教科指導におけるICT活用で、よりわかりやすく深まる授業を実現するということです。今回のアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善においても、ICT活用が効果的であることは当たり前のことですので、黒板に板書するという日本の伝統的な教授法は継続しつつ、いかに効果的な場面でICTを黒板と同じ道具として使うかが重要なのではないでしょうか。

 

最後3つ目は、学力が向上したのは先生方のきめ細かな指導のおかげですが、日本の先生方は外国に比べてあまりにも忙しすぎるという課題があります。文科省としても対策等の報告は出していますが、ICTを活用し、校務の情報化を進めることによって先生方の負担を軽減しましょう、その分の時間を本来の業務である子どもたちに向かい合う時間に生かしていただきましょう、というのが校務の情報化の目的です。

 

情報活用能力の問題とともに、タイピング能力の低下も浮き彫りに

こちらの情報活用の調査は2013年のものですが、複数の情報を整理、分析するのが苦手であるという結果が小中学校で出ています。そして2015年度、高等学校の約5000人の生徒を対象に、同じように学校でコンピュータを使った情報活用能力調査を行っています。まだ結果の分析をしているところですが、どうやら小中学校と同様の状況と課題が見えるという中間報告をさせていただきます。

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ここで浮き彫りになったのが、キーボードによるタイピング入力の低下です。1分間当たりの文字入力ですが、小学生は平均5.9文字、つまり10秒に1文字しか打てません。小学校を中心にタブレット型パソコンの普及が進んでいることや、スマートフォンなど家庭でもキーボードで入力する機会が少なくなっていることの影響だと思いますが、これは非常に大きな課題です。

 

また、高等学校の調査の際、高校2年生のタイピングを見てみると、左右の人差し指1本ずつしか使っていませんでした。小学校の段階からキーボードの配列を覚えていれば、この生徒はもっと速く入力ができるのにもったいないなと思いました。この生徒が社会に出るときに、タブレットだけでは仕事はできないでしょうし、企業の方に聞いても、しばらくキーボードは残る、10本の指で入力する速度にはかなわないということも伺います。実は、現行の小学校学習指導要領総則の中では、「コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身につける」ということが明記してあります。次期指導要領改訂においても、この点はさらに充実する必要があると考えています。

 

ICT環境の整備~平均値だけでなく、学校間・地域間格差の拡大が問題

ICT環境の整備も課題です。2014年度の調査結果では、教育用コンピュータ1台当たりの人数は6.4と、横這いが続いていますが、タブレット型コンピュータに関してはこの1年間で倍以上に伸びているという状況です。これは、古いパソコンの更新時にタブレット型に入れ替えている表れだと思います。しかし、先ほど申し上げたようなキーボード入力の問題もありますので、コンピュータ室の端末を更新する場合には、最低限キーボード付きのものにしていただきたいとお願いしているところです。また、電子黒板も1クラス1台を目指しているにもかかわらず、まだ10クラスに1台どまりというのが現状です。

 

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これらICT環境整備状況も、先ほどの研修の実施状況と同様、自治体格差が広がっていることが非常に大きな問題です。学習指導要領は、日本のどの地域においても同じ教育水準を保つためにあるのですが、教育環境にこれだけ格差がある中で、同じ教育水準を保つことは極めて困難です。

 

都道府県別ではなく自治体別、市町村別に見ると、教育用コンピュータに関しては3.6人、実質4人に1人が目標ですが、それを達成しているのは480自治体(27%)しかありません。学習指導要領の趣旨の実現のためには、こういった自治体の底上げが最大の課題です。また、普通教室のLAN整備についても、100%を目指しているのは205自治体(12%)のみ。電子黒板、拡大提示装置についても1クラス1台といっていますが、これを目指しているのは27自治体(2%)。実物投影機も同様です。 

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教育現場へのICT導入は「待ったなし」。まずは速やかな環境整備を

ICT環境整備に係る予算については、地方財政措置として4か年計画で毎年単年度に1678億円を積算しています。標準的な規模の1学年3クラスの小学校があるとすれば、毎年ICT環境整備のために564万円の予算が積算はされていますが、これを予算化するかしないかは最終的に自治体の判断になります。予算要求をして、予算化をしてICT環境整備をするのか、あるいは人件費やエアコンの予算に使うという判断をした結果が、自治体間の格差の一つの大きな原因です。

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ICT環境整備の予算要求をすると、その導入効果に対する評価を見せるように常に求められると伺いますが、人工知能の進化で職業が半分なくなるだろうといわれる情報化社会に向けて、教室の中だけアナログのままで本当に良いのでしょうか。全ての児童生徒に情報活用能力を育成するためには、効果的な場面でICTを活用するとこんな特性・強みがあるということを示す必要があります。カスタマイズが容易で、時間的、空間的制約を超え、双方向性を有する。そして電子黒板、拡大提示装置等で写真を拡大するだけでも、子どもたちの興味関心を高めるという効果は、アクティブ・ラーニングの視点に立った主体的・対話的で深い学びの実現に大きく貢献できます。そして、個別指導、特別支援教育、遠隔授業等にも非常に有効です。また、問題発見・解決のプロセスの様々な場面でもICTが活用できる場面が想定されます。

以上お話したように、10年後20年後に生きる子どもたちのことを考えて、今まさに指導要領改訂の議論、小学校段階から全ての教科の教育活動において情報活用能力を身につけるための教育を充実しましょう。また、高大接続改革についても、そういった汎用的能力の学生を社会に送り出しましょう。さらに、教員養成も新たな課題に対応していくことが検討され最終まで出ています。このような教育改革の大きな方向性を踏まえると、学校のICT環境整備はもちろんのこと、先生方のICT活用指導力向上は、緊急かつ重大な課題であり、そのために、地方財政措置の積極的な活用をお願いする通知を、財務課長名と情報教育課長名の連名で出したところです。学校や教育委員会はもちろんのこと、財政当局を含む全ての教育関係者にこのことの理解そして対応をお願いして、私の説明を終わりにします。

 

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[質疑応答]

Q1.(教員養成系の大学教員) 教員養成のカリキュラムを見直したり、教員研修を行ったりする、というお話でしたが、具体的に教育職員免許法にはどのように反映されるのでしょうか。

 

新津氏 次回の国会には法案改正を提出する予定だと聞いていますが、ICT環境整備をはじめとするそのための対応をすることが教員養成系及び教職課程を置く大学には求められてくると思います。

 

Q2. (企業人) タイピングがまともにできない生徒の多さに驚きましたが、今回の学習指導要領の改訂で、児童生徒が最低限達成すべきプライオリティはどこに置かれるのでしょうか。

 

新津氏 今回の学習指導要領の改訂では高校の教科「情報」の充実が前面に出ていますが、高校だけでなく、小中学校から情報活用能力を育成することも重要視されています。小学校で、機器の操作はある程度きちんと行えるようにして、中学校・高校と進む中で情報活用能力全体の底上げを図ることが重要ですが、最低限のラインは現段階では申し上げられません。

 

Q3.(大学教員) 諸外国は幼稚園から高校までICTという教科(科目)で一本化して、それに対する教科書がありますが、日本は小学校では各科目の中、中学校は「技術・家庭」、高校は「情報」とバラバラです。それでは一貫した教育に無理があるのではないでしょうか。

 

新津氏 外国の例で言えば、イギリスでは小学校段階で「Computing」という科目を設定していますが、フィンランドなど特定の科目を設けずに各科目の授業の中で行っている例もあるので、特化した科目を設置しなければうまくいかない、というわけではないと思います。