高校サイドから 柏陽高校での「慶應入試」の試行

受験科目として選ぶ可能性。課題は受験勉強だが、役立つと思っている

神奈川県立柏陽高等学校 間辺広樹先生


情報が入試科目になることは、生徒が情報を学ぶ機会を増やし、学習意欲を向上させるため、情報教育が目指す学習目標の達成に繋がると考えられます。間辺先生は、情報入試を推進する高校の立場として、「情報入試に必要な学習」と「情報入試に対する生徒の考え方」を示すことで、情報入試の普及や情報教育の充実に貢献できると考え、入試を想定して作られたテスト問題と、独自に作成したアンケートを用いて、これらを明らかにすることを試みました。

 

慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部(湘南藤沢キャンパス/SFC)が公開した一般入試「情報」参考試験(一部)を、情報を学び始めたばかりの高校1年生に解かせました。これらを分析した結果、受験対策としての指導の観点や、科目選択制にすることで情報入試が広まる可能性があることなどがわかりました。

 

3. SFC参考試験の結果および考察
~「情報の科学」中心。能力差が測れる質の高い問題
4.アンケートの結果および考察
~「情報」は「英語」に続いて有効で、入試にも抵抗感はない


1. はじめに

~「情報入試に必要な学習」と「情報入試に対する生徒の考え方」を明らかにする

教科情報を大学の入試科目にしようという動きがあります。これまでも20程度の大学が「情報入試」を実施してきた実績があり、また、専門の研究会も設立されています (1)。慶應義塾大学藤沢キャンパス(SFC) の総合政策学部と環境情報学部では、2016年度入試から一般入試に「情報」を導入します。また、それに導入に先立って、2014年7月30日に一般入試「情報」参考試験を実施し、同年9月26日に問題と解答を一般公開しました(2)。

 

SFCが情報入試を実施することで、同様の動きが加速することが考えられます。神奈川県立柏陽高等学校でも、この動きを捉えて、情報教育の改善を図ると共に、「情報入試に必要な学習」と「情報入試に対する生徒の考え方」を明らかにすることが、情報入試の普及に貢献できると考えました。

 

そこで、SFCの参考試験の6つの大問の中からから、情報を学び始めたばかりの1年生でも解けそうな問題3問を選び、3クラスでそれぞれ1問ずつの試験を実施しました。また、試験の後で、情報入試や教科情報をどのように考えるかをアンケート調査も行いました。

 

その結果を分析し、情報入試を見据えた情報教育のあり方について考察します。

 

(1) 情報入試研究会  http://jnsg.jp/

(2) 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスHP  一般入試「情報」参考試験の実施について、

http://www.sfc.keio.ac.jp/admissions/joho_sankoushiken2014.html(2014).

 

2. 調査方法

SFC情報入試参考試験の詳細と、調査を行った柏陽高校の概要を説明します。

2-1. SFC情報入試参考試験

SFCの参考試験は6つの大問で構成されています。授業時間に余裕はなかったため、各クラスには参考試験の大問の中からそれぞれ1問を選ぶことにしました。それまで学習した内容を多く含んでいるか、または、学んでなくても常識的な判断や論理的な思考を働かせれば解けそうか、を基準として第3問、第4問、第6問を選びました。

 

この3 問を各クラス(40名)に1 問ずつ割り当て、それぞれに20分かけて実施しました。なお、第1問では主に情報倫理、第2問では主にネットワークの仕組み、第5 問では確率を扱っています。これらは試験実施時は十分に生徒は学習していなかったので、今回の調査では扱わないことにしました。

各クラスで実施した問題

参考試験の問題のタイプは選択肢から番号を選ぶ問題と、数値部分を穴埋めする問題に分かれます。尚、穴埋め問題では、例えば2ケタなら2マスというように、桁毎にマスが用意されていて、マスのすべてが正しく書かれていれば正解となります(後に示す表やグラフでは「12-」や「12-13」と表現する)。「小問」毎の配点は3点~30点。分析では問題毎の配点(ex.第3問は52点)を100 点に換算して難易度等を考察することとしました。

 

今回実施した試験問題の概要を以下にまとめました。

 

<第3問>

第3問は、(ア)データが示す内容を表現するために適するグラフを選択する問題、(イ)待ち行列を扱った問題、(ウ)プロジェクト管理の問題、(エ)統計グラフを判断する問題の応用で構成される。統計グラフは教科書にも載っている内容である。ただし、授業では簡単にしか触れていなかった。そこで、教科書には記述がない三角グラフやパレート図が選択肢に含まれていたため、生徒にはどのような形のグラフなのかを画像で示した。待ち行列は授業では扱っていなかったが、必要な式は問題文に示されており、問題に誘導されて答える形式であるため、常識的な判断と思考力を組み合わせて行けばある程度解けるだろうと予測した。プロジェクト管理も授業では扱っていなかったが、こちらも題意を読み取って、与えられた情報を表やグラフにまとめれば、解けると考えた。

 


<第4問>

第4問は、(ア)2進数と10進数による数値表現の問題、(イ) グラフ理論の中にある無向グラフの問題で構成される。既に、2進数は授業で学んでいるので高い正答率が望めるが、小数の表現は扱っていなかったので、生徒にとっては応用問題になる。グラフ理論は授業では扱っていないが、難易度は高くなかったので、論理的な思考力を働かせることで解けると考えた。

 


<第6問>

(ア)(イ)共に、プログラミングの問題で構成される。「処理の始め」「処理の終わり」などの言葉を用いて手順を作る問題である。授業ではプログラミングは扱っておらず、生徒の多くはプログラミングの経験はないが、第4 問と同様に論理的な思考力によって解けると考えた。ただし、(イ) は11 の手順を適切な順序で並べる問題であり、そのすべてが正しくないと正答にはならないため、結果に差が生じると予測した。

 


第3、4、6問の問題・解答はこちらから

※慶應義塾大学HPで公開されている全問題・解答についてはこちらから

http://www.sfc.keio.ac.jp/joho_sanko_2014_kekka.html

 

2-2. 柏陽高校の概要

調査を行った神奈川県立柏陽高等学校は、神奈川県の学力向上進学重点校に指定されている高校の1 つです。生徒の大学進学に向けた意欲は高く、入学時より高度な内容を学習しています。以前SSH(スーパーサイエンスハイスクール) の指定を受けていたため、理系進学を希望する生徒が多く、論理的な思考力の高い生徒が多くみられます。また、例年、慶應義塾大学を受験する生徒も多く、今回のSFCの動きには注目しているようです。

 

情報の科目は「情報の科学」を必修とし、1年と2年で1単位ずつ分割履修を行っているため、学年あたりの授業時間数は少なくなっています。授業の1コマは65分。前期は2週間に1回、後期は1週間に1回という変則的な時間割になっています。

 

本調査は10月に行いましたが、4月からの授業数はどのクラスも10時間以下であり、情報を十分に学んでいるとは言えない状況でした。

 

調査は学年8クラスから無作為に3クラス(各クラス40名)を選びました。どのクラスも成績が均等となるように編成されており、定期試験などでも3クラスに大きな差は生じていません。

 

2-3. 情報入試と将来に関するアンケート

試験後に行ったアンケートは「情報入試(Q1~Q14)」と「将来(A、B)」に関する項目で構成しています(詳細は下記質問項目参照)。

 

「情報入試」に関しては、参考試験の難易度や科目としての情報の印象を明らかにするための14の質問に対して、それぞれ4つの選択肢から選ぶ形式としました。「将来」に関しては、生徒の進路希望と情報との関連を明らかにするために、2つの質問に対して多くの選択肢から複数の答えを選んでもらう形式としています。

 

※「~」記号は段階的に強さの度合いが変化することを意味する。また、Q11にあるビーバーコンテスト(http://bebras.eplang.jp/)とは、楽しみながら情報科学の基礎概念を学ぶことを目的として作られているコンテスト形式の初学者向け教材で、柏陽高校で使っているものある。

 

★★情報入試に関する質問(Q1-Q14) ★★

Q1 性別

  1. 男子 2. 女子

Q2 試験の難易度を問う

  1. 難しい ~ 4. 簡単

Q3 自分で何%くらいできたと思うか?

  1. 75 %以上 ~ 4. 25 %未満

Q4 問題文のわかりやすい?

  1. わかりにくい ~ 4. わかりやすい

Q5 情報が入試科目だったら授業を受ける姿勢は?

  1. 今より頑張る ~ 4. 変わらない

Q6 情報が入試科目だったら受験に影響するか?

  1. 影響なし ~ 4. 強く影響(受験を止める等)

Q7 受験科目だったらどうやって勉強するか?

  1. 参考書探し 2. 情報処理技術者試験の過去問 

  3. ビーバーコンテスト過去問 4. 教科書を読む

Q8 情報が大事な教科だと思うか?

  1. 強く思う~4. 全く思わない

Q9 (文系対象) 受験科目が情報を含めた選択制なら?

  1. 国語・社会・英語 2. 国語・社会・情報 

  3. 国語・英語・情報 4. 社会・英語・情報

Q10(理系対象) 受験科目が情報を含めた選択制なら?

  1. 数学・理科・英語 2. 数学・理科・情報

  3. 数学・英語・情報 4. 理科・英語・情報

Q11試験内容はビーバーコンテストと関連する?

  1. 強く思う~4. 全く思わない

Q12情報入試を支持する?

  1. 強く支持する~4. 全く支持しない

Q13情報の前期評価はいくつだった?

  1. 10 or 9  2. 8 or 7  3. 6 or 5  4. 4 以下

Q14別の情報入試問題を解いてみたい?

  1. 強く思う~4. 全く思わない


★★将来に関する質問(A-B) ★★

(A). 将来の進路(大学や、その後の仕事) として関心のある分野を、次から二つまであげてください.

 1. 医療・医学 2. 理科・技術 3. 自然・環境 4. 国際関連 5. 社会全般 6. 教育・心理 7. インターネット・コンピュータ 8. デザイン・芸術・歴史・文学 9. その他

 

(B). 社会に出て仕事をする際に「特に役に立つ教科」はどの教科だと考えますか(中学で学んだ教科も含む).次から3 つ上げてください.

 1. 英語 2. 現代文 3. 古文 4. 漢文 5. 数学 6. 世界史 7. 日本史 8. 地理 9. 公民 10. 化学 11. 生物 12. 物理 13. 情報 14. 技術 15. 家庭 16. 総合 17. その他


 

SFC参考試験問題

第3問の解答


第4問の解答


第6問の解答


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村井純先生
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