【授業事例14】

他教科の要素を情報の授業に

~表現方法を学ぶムービー制作の授業に、英語の要素も盛り込む

兵庫県立姫路西高等学校 西川昌弥先生


※2012年に姫路西高校で情報科の教師をなさっていた、西川昌弥先生にお話をうかがいました。

(現在は兵庫県立西脇工業高等学校)

姫路西高校は創立135年の伝統校であり、1学年が7クラス280人で、東大・京大・医学部等難関大学をめざす生徒も多い進学校です。2012年度は、教科「情報」では2・3年生の必履修科目として「情報C」を設置し、毎週1時間の授業を行っていました。私は2年生の全クラスと、3年生の文系クラス(3クラス)を担当しており、ここでは主に3年生で行った内容を紹介します。

 

西川昌弥先生
西川昌弥先生

理系クラス(4クラス)は別の先生が担当して、「理科の面白さや、数学の大学入試問題をプレゼンする」というテーマで進めていました。文系クラスでも同じようなテーマを設定することはできましたが、大学入学以降の、より将来的なことを見据えて、「表現方法を学ぶ」ことを基幹にしたカリキュラムを組んでみました。

 

オススメのお店を英語でプレゼン

3年生の前期では、言葉を使った表現に主眼を置き、後期は映像や音などの媒体を利用して、統括的に情報を活用し、伝えたいことを的確に表現する能力を育成したいと考えました。

 

前期は、「オススメのお店を1つ紹介する」というテーマで、プレゼンを行いました。フランチャイズのマクドナルドやローソンなどは除いて、自分が普段行くお店でいいので、聞いた人が行きたくなるようなプレゼンをしてみようと。時間は1人3分に抑えました。

 

自主的に取材をして、写真を撮影している生徒もいました。良識の範囲内で動くと信じていましたので、私のほうからは取材時の注意などは特に伝えていません。プレゼン後は、社会に出ることを意識して、アポイントの取り方や、Wordで名刺を作成、交換方法を各自でインターネットで調べたり、著作権などモラルに関する確認をしました。

 

パワーポイントのスライドは日本語で作成しますが、進学校だということもあり、発表は英語ですることを奨励しました。「どうしても無理なら日本語でもいいけど、英語でプレゼンする人にはボーナス点を追加します。中学校英語でいいからチャレンジしてみよう」と伝えたところ、半分くらいの生徒は英語でプレゼンしました。本来は全員に英語でやってほしかったのですが、このカリキュラムを3年生に導入した最初の年だったため、英語への意識付けをするには時間が足りなかったと反省しています。

 

アメリカ人はユーモアを交えながらラフに話すので、そういう映像も事前に見せながら、「受けを狙って面白おかしく話すのもアリ」「失敗を怖れずチャレンジしよう」と話しています。スティーブ・ジョブズ氏がiPhoneを発表したときの映像は、字幕スーパーつきのものがYou Tubeに載っているので、これも見せています。

 

また、英語の授業との連携はしていませんが、英語の副読本は何を使用しているか等、英語の先生にはいろいろ聞きました。せっかくなので、持っている副読本を活用してさまざまな表現方法を考えさせてみたかったからです。TTで英語の先生がいましたので、英語の微妙なニュアンスなどは助けてもらいました。

 

3年生後期の授業では、自由にテーマを設定させてフォトムービーを作成

3年生後期の最後には、Windows Live Movie Makerを使って、フォトムービーの作成を行いました。グループで作業をする場合は5名以内とし、1人でも作品を作っていいことにしました。見せる対象は同世代の高校3年生に絞り、テーマ設定は生徒に任せました。ムービーの時間は音楽1曲分で、だいたい5分くらいです。

 

今の高校生は見本がないとなかなか取り組めませんし、すぐに答えを求めがちなのですが、「こうしたら」とアドバイスしたくなる気持ちを抑えて、生徒を主体に、教師はあくまで補助役というスタンスを心がけました。イメージを湧かせるヒントとして、以前の勤務校で生徒が作ったムービーを見せたり、You Tubeの動画サイトを自由に閲覧させたりしたほか、私が撮った前回の授業の様子の写真を1分くらいのムービーにして、次の授業で流しました。これは前回自分たちが学んだことの振り返りにもなりましたし、演出方法のバリエーションを伝えるうえでも効果的だったと思います。

 

授業では計6時間をムービー作成にあてました。本校は授業時間が55分ですが、最初の5分で出欠確認と前回の授業時のムービーを流し、最後の5分でエクセルを使った作業報告書を書かせているので、実質の作業時間は45分くらいです。もちろん授業時間だけでは終わらないので、生徒は昼休みや放課後、早朝を利用して仕上げていました。作業報告書には、その日にやったことや今後の課題、覚書などを簡単に書くのですが、グループで取り組んでいる場合は、毎回相互評価もさせました。

 

写真は授業時間外に撮らせ、「カメラを学校に持ち込む場合は、管理は自己責任で」と伝えています。過去に撮影したプリント写真を使う場合は、私がスキャンすることにしたのですが、持ち込まれた枚数が多かったためにかなりの時間を費やすことになりました。ネット上のデータを使う場合は、「本来は著作権の許諾が必要」と話し、クラス内で見るだけにとどめています。

 

テーマはさまざまです。卒業の思い出としてクラスのムービーや、お世話になった先生方のムービーを作る生徒もいますし、学校生活とはまったく関係なく、自分たちがゲームの主人公になりきったムービーを作る生徒もいたりします。学年の生徒の約3分の1の協力を得て作っている子もいましたね。

 

英語の取り入れ方としては、Wordでムービーの紹介文を、全員に英語で書かせています。

 

プレゼン時や作品完成時には、時間の許す限りフィードバックを行いました。それぞれの生徒に良い点・改善点などをコメントしたり、自分自身で考えさせる問いを投げかけたりしました。さらにプレゼン時には、生徒間で相互評価もさせました。採点は、5段階だと「ふつう」の3をつけてしまう生徒も多いため、4段階にして、コメントとして良い点や改善点を書かせました。

創造力、表現力について多くの気づきがあった

授業の最後・6時間目には、ムービーがほぼ完成されていたクラスがあったので、たまたまそのとき国際交流で来校していたオーストラリアの生徒と一緒に、鑑賞会を行いました。「留学生は日本語で話してくるけど、こっちは英語で話そう」と伝え、作品の説明を英語で簡単にした後に、皆で鑑賞しました。

作り手の感想としては、「何もない状態から作品ができた達成感がすごくあった」「創造力がついた。この授業を受けてよかった」「表現の難しさを痛感した」「伝えたいことを伝えるには、カメラのアングルをどうするか、どのように映像をつなぎ合わせればいいか等、いろんな視点があることに気づいた」「表現する力について考えた」という声があがっていました。言葉での説明はなく、映像だけで説明するので、どこまでを伝えられるかということで苦労していたようです。しかし、「苦労はしたけど楽しかった」という意見が大半を占めていました。センター試験前の11月とか12月は受験生にとって大事な時期ですが、「この授業が新鮮で、いろいろと気づくことができた」「次はこうしてみようと自分で考える、能動的な学びの楽しさがわかった」「受験には使えなくても、もっと先に使えそうだ」等々の感想が多く見られました。

 

教科「情報」こそのタイムリーな題材や、他の教科の要素を授業に取り入れる

教科「情報」は、時代と共に変わる、「生きている」教科だと思っているので、タイムリーな題材を授業に取り入れられるよう、常にアンテナを張っています。たとえば昨年は著作権法が改正されたので、情報モラルを教えるときにこの点に触れ、スマートフォンを扱うときにはLINEやカカオトーク、commなどのアプリを事例に挙げながら、それぞれのメリットとデメリットを考えさせました。情報モラル、セキュリティに対する意識の育成は、時代に合った題材を使うのがとても大事なことだと思います。

 

また、社会の動きや生徒の実態に合わせて、教科の枠を超えた授業展開をすることも心がけています。私自身は大学では数学科に在籍し、卒業後は高校で数学と情報を教えていますが、英語も好きなので、英語でのコミュニケーション力を身につけさせることも重視しています。いろんな先生のお話や、会社に勤める同級生の話を聞きながら、「いま社会にはこんな動きがあるから、高校生には何を身につけさせるべきか」ということを考え、数学・理科的な要素、国際的な要素、経済・法学的な要素も含めて、毎回の授業を進めています。