高校教科「情報」シンポジウム2015春

第3回大学情報入試全国模擬試験実施結果

谷聖一先生(日本大学/情報入試研究会)

谷聖一先生
谷聖一先生

大学情報入試全国模試は今回で第3回になります(2015年2月21日実施)。第1回(2013年5月18日)の受験者数は80名、第2回(2014年2月22日)が869名で、今回は2000名以上になりました。本日、分析結果を紹介するのは、団体受験をした人の中で、AセットとBセットの両方を受験した1943名の人のデータになります。

これは前回、第2回模擬試験の結果です。合計点を出してみるとなかなかよい分布になっていますが、プログラミングの部分の結果はさんざんでした。


縦軸にプログラミングの部分の得点を、横軸にプログラミング以外の165点満点分の得点を取ってグラフ化すると、プログラミングはほとんどできていないことがおわかりいただけると思います。


ここから今回の結果です。200点満点で、分布はこのような形になりました。平均点は90点弱です。

ただ、今回20数校が団体受験しており、それらの学校が何名参加したかを参加数多い順に並べたのが、次のスライドになります。これを見ますと、参加者の多い上位2校で全体の半分近くを占めることになります。少ないところは3名とか2名で、部活で、あるいは、興味がある人に授業以外のところで受けさせてみた、というケースもあるのではないかと思います。

 

参加者数上位2校を除いた平均点を見ると、かなり違ってきます。これは、633人受験された学校は、おそらく1学年全員が受けているので、情報が得意な人もいれば、授業なのでしぶしぶ受けている人もかなりいるのかもしれません。逆に、受験者が少ない学校は、部活なり希望者なりということで、興味がある生徒の割合が高いのではないでしょうか。今回お見せする集計・分析は全て全体で見ていきますが、ある程度学校によって偏りはありうるということを差し引いて見ていただきたいと思います。

セットA・セットBとも100点満点です。きれいな分布で、「情報の科学」でプログラミングの入ったセットAの平均点は50点くらい、セットBはやや低くなりました。

セットA・Bを合わせた共通問題の分布を見ていきます。小問に分かれているので、ものすごく点数が低い人は少ないですが、点数が高い人もあまり多くなく、全体が真ん中に寄っている分布です。

「情報の科学」は、セットA・Bを合わせるとこのような分布になります。プログラミングの方はかなり得点が低い方に寄っていて、モデル化の方はそれほど低くはないという形でした。ただ、全体としてかなり下のほうに寄っている形です。

「社会と情報」は、今回は受験者にとっては取り組み易い問題だったようです。前回はここまで高得点側に寄ることはありませんでした。

セットA・Bの大問題ごとの平均点です。1番が共通問題で、2番が「情報の科学」、3番が「社会と情報」ですが、やはりプログラミングを出したA2の平均点が一番低くなっています。ただ、平均だけ見ると、セットAとBの共通問題(A1、B1)や、セットBの「情報の科学」(B2)とさほど変わらなくなっています。

属性や難易度などのアンケとの紐づけ

受験した人に対してアンケートも行いました。今回の模擬試験の難易度や、出題の関連分野を学校で習っているかなどと、教科情報の勉強は好きか嫌いかなども聞き、成績と紐づけています。

ただ、セットAとBの両方受験した人は1943名いますが、アンケートに回答してくれた方は全員ではありません。どちらか一方でも回答してくれた人は1503名で、両方回答してくれた人は少なく、セットAだけの回答者が多いです。これは、50分授業で問題を配布して45分試験をして回収して…となると、アンケートは次の授業の時に時間を取らなければいけない。何とかAだけは回答させられたが、両方はできなかったという学校もあるのではないかと思います。


性別・学年はこのようになっています。未記入・無回答がかなり多いです。実施が2月ですので3年生はさすがにいませんでした。

 

好き嫌いという点では半々でしたが、得意・不得意では不得意と答えた人の方が圧倒的に多かったです。「好きで得意」な人より「好きだけど不嫌い」な人が多く、「嫌いで不得意」な人がさらに多い、という結果になりました。

 

平均点だけでわからないことは多いですが、とりあえず平均で見たときに、女子と男子の比較は、団体受験で大勢受けた学校の属性が影響しているかもしれません。判明した得点だけで見ると、それほど差はないですね。平均点は、学年で見ると、1年生の方が高かったです。アンケートでは、学年も3分の1くらいの方が未記入だったので何とも言えませんが、学年を書いた人では、2年生よりも1年生の方が、点数が良かったということになります。

好きか嫌いかで言えば、やはり好きな人の方が、点数が良かったです。また、得意・不得意だと、得意の方がかなり良かったです。好き・嫌いと得意・不得意の組み合わせでどれくらい違うかということは表をご覧ください。

先生方には、受験した生徒はどういう科目を受けているのかを聞いています。「不明」には、未記入や判別不能なもの、「1年の時に『情報の科学』、2年で選択」というのも入っています。「専門」は、工業高校や商業高校などで行っているものです。「情報の科学」を受けている人も、平均点だけ見るとそれほど変わりません。このぐらいの点数の違いは統計的に意味があるのかということがあると思いますので、「情報の科学」を学んだからといってプログラミングの点数がすごく高いというわけではないのかな、という気がします。その辺りは今後もきちんと見ていかなければならないと思います。

個人的には、プログラミングの経験がないために最初から諦めて解いてない人もいるのではないかと思っていました。共通問題(A)、「情報の科学」(B)、「社会と情報」(C)のそれぞれについて、45分の試験時間のうち何%ずつ解答に時間を使ったかをアンケートで聞きました。そうすると、セットAの方は「情報の科学」に使った時間は平均43%で、授業で習っていなくても、問題を読んでその場で頑張って解こうとしたことがわかります。

 

このスライドは、受験者に授業で習ったかどうかを聞いたものです。回答の仕方としては1~5の5段階で、1はほとんど習った、3は半分くらい習った、5はほとんど習っていない、2と4はそれぞれの中間です。セットAの結果ですが、プログラミング(セットA・科学)については、半分程度の生徒が「習った(1)」~「半々(3)」と答えています。多くの生徒はおそらくプログラミングを習っていないはずですが、本人たちは習ったと思っているのですね。ただ、今回は出題の仕方を工夫して、問題を読んで順序立てて考えていくと解けるという形にしましたので、プログラミングそのものは習っていなくても、自動的な処理手順のようなことは経験があるため、習ったと思っているという可能性もあります。その辺りは、次回のアンケート等で工夫して追跡したいと思います。

同時に難易度も聞いています。内容は易しい(1)、普通(3)、難しい(5)で、2と4はその中間です。プログラミングはやや難しい(4)・難しい(5)と答えている人が8割くらいいます。やはり、難しいという印象だったことがわかります。

一方セットBでも、「情報の科学」のモデル化のところは半分近くが「習った(1)」~「半々(3)」と回答しています。難易度では、やや難しい(4)・難しい(5)と答えた人が3分の2くらいいました。しかし、プログラミングは8割近かったことをに比べると、そこまで難しいとは感じていない、ということでしょうか。

分野間の散布図

第1回模試の時、受験者は80人くらいしかいませんでしたが、プログラミングができた人は他のこともよくできる、という結果が出ていました。この時は団体受験がなく、受験者は会場にわざわざ来てくださった人でしたし、そもそもプログラミングの経験がある人が多かったようです。今回2000人が自分の学校で受験した、という状況です。そのことを念頭に,分野間の散布図に関する3枚のスライドを見ていただければと思います。

最初は「共通問題」と他の分野の散布図です。左のグラフの縦軸が「共通問題」の得点で60点満点です。横は残り2分野の合計で140点満点です。散布図だけからは,相関があるのかないのか、はっきりしません。右上は「情報の科学」との散布図、右下は「社会と情報」との散布図で、横軸が「共通問題」の得点、縦軸がそれぞれ「情報の科学」「社会と情報」の得点(満点はそれぞれ70点)です。

次は「情報の科学」と他の分野の散布図です。左のグラフの縦軸が「情報の科学」の得点(70点満点)で、横軸は残り2分野の合計で130点満点です。右上は「共通問題」との散布図で、横軸が「共通問題」(60点満点)で、縦軸は「情報の科学」(70点満点)です。右下は「社会と情報」との散布図で、横軸が「情報の科学」(70点満点)で、縦軸が「社会と情報」(70点満点)です。

最後は「社会と情報」と他の分野の散布図です。左のグラフの縦軸が「社会と情報」の得点(70点満点)で、横軸は残り2分野の合計で130点満点です。右上は「共通問題」との散布図で、横軸が「共通問題」(60点満点)で、縦軸は「社会と情報」(70点満点)です。右下は「情報の科学」との散布図で、横軸が「情報の科学」(70点満点)で、縦軸が「社会と情報」(70点満点)です。

以上3つのスライドで6種類の散布図(注:右側の散布図には重複があります)を見ていただきましたが、どのグラフもかなり、分布が広がっています。前回もそうでしたが、どの分野も満遍なくできる・できないのではなく、人によって得意な分野がいろいろ違って、合わせると広がりのある形になるようです。

 

小問単位と総得点の関係

さらに細かく、小問単位と総得点の散布図を見ていきます。左側がセットAの共通問題の問1の計算問題です。縦軸は問1の得点が0点か4点か8点かを示し、横軸が総得点です。グラフの色が濃くなっているところは人数が多いところです。0点の人が多いことがわかります。右側は問2のデータ量の問題ですが、こちらも0点の人が多い。

同じくセットAの共通問題の問3(情報システムの目的)と問4(セキュリティ)のグラフです。問3の情報システムの目的は、勘違いが多かったという問題ですが、全くできていない(=0点)よりは4点取れた人の方が多かったです。ただ、この問題ができた人が他の問題ができるかというとそうでもないことが見て取れます。問4のセキュリティは比較的できている人が多いですが、やはり総得点との相関はあまり見られません。

さらに、左のグラフはセットAの共通問題とその他の問題、右はセットBの共通問題とその他の問題の相関のグラフです。ほぼ丸に近く、相関はほとんどないですね。


数学などでも単元によって得意・不得意はあると思いますが、概してできる子は大体どの単元もできて、できない子はできない単元が多い傾向ように思います。しかし、情報は違うのでは、というのが私の感想です。

プログラミング能力はあるのか

最後にプログラミングの問題です。これは縦軸がプログラミングの部分の得点(35点満点)で、横軸が総得点の200点から35点を引いた残り165点が満点です。なんとなく真ん中が濃くなっています。プログラミングの得点が高いと、残りの方も得点が高くなっていると見えなくもないという感じにはなっています。

得点の出現頻度のグラフが下記です。今回は四つに小問に分けて、最初は単純なプログラミングの問題、2問目の小問は3問目のヒントになるような手順を考える穴埋め問題です。3問目でそれを作り、4問目がその応用のような形になっています。


4問目が10点満点で、4問目までできている人はあまりいませんでしたが、3問目くらいまではできている人が結構います。グラフの0点~3点帯に337人いますが、そのうち250人は0点です。32点~35点には6人いますが、うち5人が満点の35点です。ここで部分点になることはあまり考えられないので、今回段階的に答える形式にしたのは、段階的に評価するのに効果があったのではと思います。ただそれが本当にプログラミングの能力を見ているのか、プログラミングはわからないが自動的な処理手順をきちんと理解できたから答えられただけなのかは、改めて検証が必要だと思います。

この散布図では、セットAとセットBの「情報の科学」の得点同士を比べています(縦軸B、横軸A)。これも全面に広がっているので、プログラミングの手順とモデル化の間に相関があるとは限らない。これが、たまたまなのか、違う能力だということなのかもわかりませんが、今回の結果ではこのような形になったということをご報告します。