高校教科「情報」シンポジウム2015春

慶應義塾大学SFC一般入試『情報』参考試験

植原啓介先生 慶應義塾大学環境情報学部

植原啓介先生
植原啓介先生

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の総合政策学部・環境情報学部では、2016年2月から一般入試での「情報」を始めます。本日は、昨年7月に行った一般入試「情報」の参考試験についてお話しします。

その前に、私たちがなぜ「情報」で入試をすることになったのか、少しご説明します。湘南藤沢キャンパスには現在総合政策学部、環境情報学部、看護医療学部の3つの学部があります。総合政策学部と環境情報学部は、1990年に開設された双子の学部として、今年25周年を迎えます。

入試も変遷を重ねましたが、今年の春、つまり2015年4月入学の入試までは、一般入試では小論文が全員必須で、あと1科目を「外国語」「数学」「外国語および数学」の中から1つを選択してその点数で選考していました。2015年4月入学の入試までは、数学に「数値計算とコンピュータ」が入っていて、プログラミングを出題しました。ところが、3年前に施行された新しい学習指導要領では、「数値計算とコンピュータ」は数学からなくなっています。そのため、我々は入試を再検討せざるを得ない状況に追い込まれました。ご存じのとおり、SFCは初期の頃からプログラミング教育を強く推進しており、その意味でコンピュータ系の教員がたくさんいます。というわけで、「これは情報入試を始めるのによい機会だ」ということで情報入試を検討し、実施するに至ったということです。


SFCのアドミッションポリシーは、基本的に上記のスライドのようになっています。要は、問題を発見・分析し、解決できる学生を育てたい、ということです。現在、高校の教科において問題発見・問題解決ということに直接的に言及しているのは教科「情報」だけでして、その意味でも情報を導入するのは私達の求める学生像に合っていると考えています。


SFCの入試は来年度2016年入試から大きく変わります。これが現在公開されている新しい入試に関する情報です。2016年4月入学生の入試からは、数学はこのスライドにある単元に範囲が限定され、外国語は英語に加えてフランス語やドイツ語なども入ってきています。情報は非常にシンプルで、『社会と情報』『情報の科学』という科目名が出ているだけです。

入試の構成は、午前中に「数学」「外国語」「数学および外国語」「情報」から1つを選択し、午後は全員小論文を受験するということになっています。自分達の決めたことながら思い切ったと思うのは、情報選択者について定員を設けていないことです。もしかしたら、合格者全員が情報選択者ということも起きないわけではない、という状況です。

しかし、数学や外国語に比べて情報は教科としての歴史がまだ浅く、また私達自身も情報入試を経験しているわけではありません。そういうわけで、情報入試研究会に私も参加させていただきながら勉強を続けてきました。さらにその中で本校のアドミッションポリシーに即した問題でなければいけないだろうということで、昨年、一般入試『情報』の参考試験を実施いたしました。ここから先は、その実施内容と結果についてお話しします。


『情報』参考試験の実施内容と結果

昨年2014年7月30日に実施されたオープンキャンパスに合わせて来場された方に、「一般入試『情報』参考試験」という形で受験していただきました。現在のSFCの入試では、午前中の外国語や数学の学科試験は120分で行います。そのため、情報だけ90分や180分というわけにはいかず、参考試験も120分で実施したかったのですが、いかんせんオープンキャンパスはスケジュールが決まっていて、いろいろなプログラムが40分単位で行われます。そこで仕方なく40分の試験を3つ作って、1つだけ受けても3つ全部を受けてもいい、という形態で実施しました。

外国語と数学の試験は基本的には全問マークシートで行っていますので、情報も同様に全てマークシートで行いました。


受験者数とその内訳は、第1回は29人で、内22人が高校生でした。予備校生かどうかは把握していません。第2回は17人中12名、第3回は18人中14人が高校生でした。この辺りについては下記のURLで公開されていますので、ご興味のある場合はご覧ください。
http://www.sfc.keio.ac.jp/joho_sanko_2014_kekka.html

<第1回>

ここから先は、今回初めて開示する情報です。まず第1回の試験です。これは第1問と第2問で、第1問が「情報社会における法と個人の責任」について、第2問が「情報通信ネットワークのしくみ」についての問題です。最高点が80点、最低が12点、平均点が49点、標準偏差が20.1という結果でした。

第1回 試験問題 ダウンロードはこちらから
q1第1回問題.pdf
PDFファイル 62.3 KB
第1回 採点基準 ダウンロードはこちらから
a1第1回採点基準.pdf
PDFファイル 5.6 KB

第1問では問6(エ)の出来が非常に悪かったです。下記のような設定で、これがどのような法律に抵触するかを問うています。この問題の正解率は24%くらいでした。正解は選択肢2なのですが、選択肢3の「個人情報保護法」を選んだ人が非常に多かったです。

他の問題は比較的よくできていました。法と責任のような話は、高校でかなり力を入れて教えているのだろう、ということがわかりました。

第2問は、情報入試研究会の模試でも行ったような、インターネットの接続に関する問題を出してみました。これはあまり出来がよくなかったです。特に後半の方の計算のところができていませんでした。例えば問22(イ)は、ファイル転送にどれくらいの時間がかかるかという計算なのですが、これに至っては正答率は10%でした。選択肢4の「10ミリ秒」を選んだ人がけっこういましたが、これはバイト(byte)とビット(bit)ということに気付いていないと思われます。

問24(エ)は、正答率28%で、ぱっと見でけっこうよくできているなと思ったのですが、よくよく考えてみると4択の問題なのです。鉛筆を転がしても25%は当たるはずですが、実際、解答を見るとバラバラなのです。というわけで、これは28%の人が本当に正しく考えて正解したのかどうか、ということが気になるところではあります。

<第2回>

次に第2回、第3問・第4問です。得点分布はこちらです。

第2回 試験問題 ダウンロードはこちらから
q2第2回問題.pdf
PDFファイル 26.5 KB
第2回 採点基準 ダウンロードはこちらから
a2第2回採点基準.pdf
PDFファイル 4.9 KB

第3問は、メディア的なものや、グラフやシミュレーションに関する問題になっています。意外に正解率の悪かったのが問4(ア-D)です。これは「グラフには様々な表現方法があるが、適切なグラフを選びなさい」という問題です。幾つかの企業における就業者の年代の割合を表現するのに一番適したグラフを選べ、という問題で、正解は帯グラフなのですが、非常に多かった誤答が円グラフです。年代の割合なので、円グラフでもいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、幾つかを並べて比較をする時に一番いいのは帯グラフということになります。ひっかけ問題のつもりで出したつもりはなかったのですが、「幾つかの企業」というところをあまり気にしなかったのでしょう。

もう1つ、目立って正解率が低かったのが、下記(イ)の問16、17です。この辺は少し高度といえば高度な問題なので難しいだろうと思っていたのですが、予想どおりでした。   

問20(エ)は正解はパレート図なのですが、ここまで行くと少し難しかったかなと思っております。正解率6%なので、正しく答えられたのは1人か2人とかでした。

第4問(ア)はn進数に関する問題です。正解率が一番低かったのが問24、25です。これは10進数を2進数に変換したときの解3桁を求めるには、元の10進数で割った余りを2進数に変換すればよい、ということなのですが、3桁ということは2進数だと8です。ですから、8で割った余りを変換すれば自動的に3ケタになります。桁数に対してどういう数になっているか、ということを、たぶんあまり気にしたことがなかったのかなと思いました。


問29~33は小数の2進数表示の問題です。多くの教科書を見ると、実は扱ってはいるのですが、この辺はあまり学校ではやっていないのかなということが読み取れました。ここの正答率はかなり低いです。他のところは、そこそこよくできていました。

<第3回>

第3回で行った第5問と第6問です。得点の分布はこのようになっています。

第3回 試験問題 ダウンロードはこちらから
q3第3回問題.pdf
PDFファイル 21.2 KB
第3回 採点基準 ダウンロードはこちらから
a3第3回採点基準.pdf
PDFファイル 4.4 KB

第5問は非常によくできていました。これは、問題を見ていただくとわかるのですが、かなり数学然として、統計のような問題になっています。これがよくできていたということで、その意味では情報で受験しようとしている高校生は理系の数学などを得意とする人が多いのかな、ということが読み取れます。

最後の第6問はプログラミングの問題です。(ア)の17~20番と(イ)の21~31番の2つの問題に分かれていますが、ガイドを入れながら答えやすくする工夫をした問題については正解率がそこそこ高い、という状況と言えます。一方、後半の問題では、情報入試研究会の模試であったような、プログラミングの手順を順番に並べ替えるという問題を出題しました。ただし、ループの中に条件が入っている、プログラムとしては若干簡単なものになっています。これの正解率がだいたい33%でしたので、もう少しできてくれるとありがたいかなという感じではあります。

以上、全6問、それぞれ40分ずつに分けて出題しました。結果としては、受験者数が少数に留まってしまい、この結果から何か統計的なものが言えるかといえばちょっと微妙なところはあるのですが、とはいえ全てマークシートで試験を実施することができたということで、その辺の確認はできたかなと思います。


また、平均点を想定では50~60%にするのですが、これは思いの外うまく行きました。そういうことで、コントロールはできないわけではないのかなということです。

さらに、得点の高い人と低い人とに分離することができました。全員が50%に乗ってくるようだと入試としては使い物にならないわけですが、そういう事はなかったので入試として機能しそうだということです。そして、受験者にアンケートを取ったところ、難しいという人と簡単すぎるという人とがきれいに分かれました。きれいに分かれたということは、入試としてはそれでよいかと思っています。

参考試験は今年もオープンキャンパスと合わせて、7月30日に実施します。実際の入試が来年2月に行われますので、できるだけ実際の入試に近い形で実施をしたいと思っております。もしご興味のある方は、参加していただければ幸いです。結果については、昨年同様、9月の新学期の始まる前後くらいまでには公開できるかなと思っています。この日に受験ができなかった方も、後ほど公開された問題を見てチャレンジしていただければ、と思っています。