高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西「ジョーシンうめきた」

情報化社会を担う次世代のために~SFCの場合

慶應義塾大学環境情報学部 准教授 植原啓介先生


植原啓介先生
植原啓介先生

学習指導要領の改定が情報入試導入のきっかけに

 

湘南藤沢キャンパス(SFC)創立以来20年あまり行ってきた一般入試は、途中1回変更はありましたが基本的には午前中に「外国語」「数学」「数学および外国語」のうち1つ、午後は小論文というものです。ところが数年前、新しい学習指導要領では、数学から数値計算、コンピューターがなくなるということが判明し、入試のあり方を再検討することになりました。その時、よりどころとなったのがSFCのアドミッションポリシーです。これを皆で再確認し、2年間ほどかけて議論をしました。

 

総合政策学部のアドミッションポリシーには、「問題発見・解決に拘る学生を求めます」と書いてあります。環境情報学部の方にも「地球規模で問題を発見・解決できる創造者でありリーダーを目指そうとする学生を歓迎します」と書かれていますので、そのような力を問える入試を行わなければいけません。総合政策学部の方は、さらに入学試験の判定基準について触れていて、「自主的な思考力、発想力、創造力、実行力の有無」を問うことになっています。言い換えれば、このようなことを問うために、外国語や数学、小論文の試験を行ってきたわけです。しかし、社会は20年前とは比べものにならないほど変わってきています。入試の内容も時代に合わせて変えてきてはいますが、今回はフレームワークそのものから見直さなければいけないと考えました。

 

「情報」を使いこなす力がなければ、社会の問題は何一つ解決できない時代に

 

インターネット社会になって、もう20年以上経つわけですから、入学してくる学生は、生まれた時からインターネットがあったという子達ばかりです。例えば、知財に関して今いろいろな問題が起きていますが、知財に関する様々な法律の多くはアナログを前提に作られたもので、デジタル時代にはそぐわないものも出てきていると思います。こういうものが社会で問題になってきており、その解決のためには、法律だけでなく情報技術にもそれなりに詳しい卒業生を輩出していかなければならないという状況にあります。セキュリティーも然りです。プライバシー、なりすまし、安全、犯罪、グローバルガバナンス、教育など様々なところで問題が起きていますが、いずれも「情報」というものを理解し、使いこなす力を使わなければ何も解決できない、という状況に来ているのではないかと思います。

 

つまり、情報は「未来を生きていくために必要な学問」の1つであると思います。そこに必要なスキルはたくさんありますが、情報そのものに関する技術のみならず、情報技術を知っていながらもう一つ自分の専門を持ち、社会の問題を解決していける人材が今後必要になってくるであろうと思います。インターネットは、お茶の間にいながらありとあらゆる情報を入手できる環境を作り上げてきました。これらの情報を適切に判断し、考察しアクションを起こすことで前に進むことができる学生を育てていきたい、そういう学生に育ってくれるであろう生徒さん達を、ぜひ我々のキャンパスに迎え入れたいと思っております。

 

「情報」は「問題発見」「問題解決」に直接言及をしている唯一の必修教科

 

そういったことで、SFCでは2016年度の入試(=2016年2月に実施される入試)から情報の入試を始めることにしました。高校の教科「情報」は学習指導要領で「問題発見」「問題解決」に直接言及をしている唯一の必修教科です。これはSFCの理念と非常によく合致していますので、この教科で生徒の能力を問わないわけにはいかないだろう、というわけです。さらに、これからのグローバル社会における問題を解決するために「情報」が対象としている学習範囲は不可欠であろうと考えます。

 

2012年のクリスマスにこのことについてのアナウンスを出していますが下表の上が現行の入試、下が2016年入試の内容です。あまり詳しいことはここでは言えませんが、現在これに向けて一生懸命、学内で準備を進めています。数学の出題範囲は数Ⅰ、数Ⅱ、数A、数Bとなり、選択範囲については言及されなくなります。情報については「社会と情報」「情報の科学」が出題範囲となりますが、同じく選択については言及されていません。試験当日は、午前中は「数学」「外国語」「数学及び外国語」「情報」の4つのうちいずれかを受験し、午後は全員が小論文を書いて、この合計点で合否を判断することになります。

明治大学では情報入試の定員を20人としているというお話でしたが、我々は大胆なことに情報・数学・外国語でそれぞれ何人ずつという定員は設けておりません。もちろん学部全体の定員はありますが、とにかく、情報で良い点を取った人は何人でも取るという方針です。ただ、英語と数学の2つの教科に比べると、「情報」というのは歴史の浅い学問なので、学問が成熟していないというよりも入試のやり方として、十分にこなれているとは言いづらいところがあり、そのため我々はいろいろなところで格闘しています。その一つが情報入試研究会、あるいは情報処理学会の情報入試ワーキンググループでの活動で、こちらに来ていただいている先生方と協力をして、情報入試に関するノウハウを培っていきたいと思います。そして、我々が持っている情報は、皆様と共有させていただき、情報入試の普及に寄与したいと考えています。

2016年度入試に向けて、大学独自の模試を実施

 

ただ我々も学部としてのアドミッションポリシーを持っていますので、必ずしも情報入試研究会の模試と同様な問題を入試で出すということはできません。ですから我々も、先行して情報入試を始められた大学を見習い、独自に模試を実施する予定です。この第1回の模試を7月30日のSFCのオープンキャンパスで行います。この模試の目的は2つあります。1つは、受験生の方に「SFCの総合政策学部・環境情報学部が考えている情報入試というものはこういうものだよ」ということを知っていただく機会にしたい。もう1つは、情報入試を受けたいと思っている生徒さんたちと我々が出す問題のレベル合わせをしたいということです。今回が第1回で、今後何回行うのかということは未定ですが、2016年度入試に向けてこういった機会を引き続き実施する予定です。

 

我々のAO入試は、多分日本では一番古いと思いますが、「これがAO入試の資格です」ということは言っていません。特にA方式は、高校卒業の資格があれば、ほぼ誰でも受けることができます。自己アピールになるようなポートフォリオのようなものを生徒さんに作っていただいて、そういうものをベースに応募していただけると良いのではないかと思います。「情報入試研究会の模試でこういう点数を取りました」というのもアピールの一つの方法かもしれません。受験する生徒さんの中には、趣味で国家試験をたくさん受けているような人もまま見受けられますので、そういった人達と同じだと思っていただければよいと思います。

 

私から申し上げたいのは、基本的には情報化社会を担う世代には、何をやるにも情報のスキルは必要であろうということで、SFCでは「当たり前のように道具として情報技術を使いこなし、そのスキルを用いて社会の問題を解決する」という姿勢を大事にする学生を育てて社会に送り出したいと思っているということです。2016年から始める情報入試に込める思いは、社会の問題をデータに基づいて理解し、グローバルに問題を解決できる人材を育成したいということです。入試がそういった思いの見えるものになればと思っています。

 

高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西(2014年5月17日 大阪工業大学うめきた

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